【海外サッカー】ニュージーランドのサッカーニュース Vol.006 NZ✕AUのサッカー事情

【海外サッカー】ニュージーランドのサッカーニュース ニュージーランドとオーストラリアのサッカー事情SPORTS

FIFA女子W杯2023がニュージーランドとオーストラリアの両国で開催ということで、今回のゲストとしてオーストラリアのブリスベン在住で、NPL出場クラブのSouthside Eagles FCでテクニカルディレクターをされている三上さん(以下、AU三上)をお迎えし、また当サッカーコラムに協力いただいている、ニュージーランドのオークランド在住で、FIFAクラブW杯に多数出場されているAuckland City FC所属の岩田さん(以下、NZ岩田)のお二人にお話を伺いました。

扉右写真:選手としてプレー中の三上さん。以前のNPLのポイントシステム(年齢が若くホームグロウン選手、または同チーム所属期間の長い選手が重宝された)の影響を受け、三上さんは若手主体で選手獲得のポイントを残しているNPLクラブに移籍した。2019シーズンはSWQ Thunder FCでプレーし、NPL・QLDリーグ内で平均年齢最年少(当時)だったクラブをベテランとして支えた。チームでは年長者であったが、練習でも試合でもよく喋り、試合後のGPSチェックではシーズンを通してチーム内で常に一番走っているなど、三上さんなりのこだわりや強みは常に見せていた。若手選手と監督を繋ぐ役割を買って出たことが評価され、更にこのあと3シーズン、NPL1/2レベル (豪2部・3部相当)で競技生活を継続する事となった。

INTERVIEW

Auckland City FC
FIFA クラブW杯出場多数
岩田 卓也さん

ポジション:DF。2006年に岐阜FCに入団。オーストラリアに渡り2010年からEdge Hill United FC、Queensland Bulls FCに加入後、ニュージーランドに移住し2012〜2019年Auckland City FC在籍。2020年からWestern Springs AFC、その後、日本に戻り、はやぶさイレブン、福井ユナイテッドFCを経て、2022年から再びニュージーランドのAuckland City FCに加入。

Auckland City FC FIFA クラブW杯出場多数 岩田 卓也さん

Southside Eagles FC
テクニカルディレクター
三上 隣一さん

ポジション:DF/WG。オーストラリアで設立したGo Zamurai代表。シドニーで生まれ、日本で大学を卒業後、生まれ故郷のオーストラリアを生活の拠点とし、オーストラリアサッカーを競技レベルで追求。それらの経験から日豪サッカーの育成年代の指導方法の違いや、国民性について​深く考える。AFC/Football Australia Aライセンスを取得し、現在はSouthside Eagles FCでテクニカルディレクターとしてクラブ全体に関わっている。

Southside Eagles FC テクニカルディレクター 三上 隣一さん

両国の女子サッカー

ー 両国では女子サッカーは盛んでしょうか。

AU三上「オーストラリアでの女子サッカープレーヤーの登録者数は現在は全体の15%ほどでしょうか、しかしオーストラリア政府が男女比50:50を目指すよう支援しており、オーストラリアの男女平等意識の高さが反映されているように思います。近年オーストラリアでは、AFC/Football Australia(アジアサッカー連盟/オーストラリアサッカー協会)のBライセンス、Cライセンスコースに女性グループの参加者だけで取得ができるフィメールオンリー(女性専用)・フットボールライセンスコースなども開講されています。これは女子チームのコーチも女性が出来るように協会が取り組んでいるダイナミックな改革です。こういった取り組みも今回オーストラリアがW杯を誘致できた理由の一つでしょう。男子代表は、テクニカルなシステムでポゼッションベースのスタイルに変わってきました。女子代表は伝統的なオーストラリアサッカーとも呼べるフィジカルを押し出したカウンターやロングボールを組み合わせたダイナミックなスタイルで、オーストラリアの国民性や恵まれた体格にマッチしていて、国際大会でも力を発揮出来ている印象です」

ー 確かに女子サッカーではオーストラリアは現在FIFAランク10位ですね(日本は11位)。ニュージーランドは現在26位ですが、女子サッカーはいかがでしょうか。

NZ岩田「ニュージーランドで言えば、男女比への大きな取り組みがある印象はないものの、男子と同じくセミプロの女子リーグもあり、試合数も男子に近く、盛んであると言えると思います。男女のチームがあるクラブはお互いに試合を見に来たり仲が良い印象です。クラブのアカデミーなどでも女子が男子に混ざってプレーしたりとフレキシブルにサッカーをプレーできる場があります。シーズン中に増減もありますが、今年は日本人女子プレーヤーも5人ほどリーグで活躍しています」

Gold Coast Knights FCでプレーしていた三上さん

QLD州のNPL参戦以降、常にファイナルシリーズまで進んでいる強豪・Gold Coast Knights FCでプレーしていた三上さん。この年(2017シーズン)は、シーズン終了後にオーストラリア国内の、主にNPLに所属しているクロアチア系クラブで構成されるトーナメントが首都・キャンベラで開催され、Gold Coast Knights FCも参戦した。オーストラリアのサッカー界でも歴史の深い名門クラブ、Sydney United 58 FC(NPL1 NSW)、Melbourne Knights FC(NPL1 VIC)、Canberra Croatia FCなどの競合を撃破して決勝まで進んだ。決勝では、伏兵・St Albans Saints SC(NPL1 VIC)に逆転負けし、準優勝と苦杯を舐めた。

2021年シーズン、三上さんはNPL Academyリーグ(オーストラリアの育成年代のトップリーグ)のLions FC・U14 監督として指導し、チームはQLD州を制覇

2021年シーズン、三上さんはNPL Academyリーグ(オーストラリアの育成年代のトップリーグ)のLions FC・U14 監督として指導し、チームはQLD州を制覇。ファイナルシリーズの最終戦で強豪・ブリスベンロアーFC・U14との戦いを制し、チームで最高の瞬間を分かち合った。この1シーズン前から指導してきたチームが、指導2年目で多くの成果を生んだ。このシーズンを経て選手達は、地域・州選抜に呼ばれたり、他州のAリーグアカデミーなどからもオファーが来るなど個人の成長がダイレクトに評価として現れるなど、成長がはっきりと分かる充実したグループと貴重な時間を過ごした。「かつてはリーグ中位程度にいたチーム選手達が、試合ごとに闘う姿勢を強化し、練習ごとに継続から上手くなる楽しみを実感していったんです」と三上さん。三上さんは自身で立ち上げたアカデミーでブリスベンやゴールドコーストの選りすぐりの若手選手をプライベートで長く指導してきたが、「NPLの育成リーグに身を置きながら、チームとして同じ方向を向かせ、地元のクラブからリーグ戦として地域・州リーグを戦い、選手達の日々の表情を見ながら成長を見守るプロセスに新たな学びと充実感を感じています」という。プレーヤーとしてだけなく、NPLシステムの育成指導者としての成功や学びが、現在のテクニカルディレクター(Southside Eagles FC)の仕事につながっている。

両国のサッカー事情

ー ニュージーランドにはプロリーグがなくセミプロとして仕事をしている選手が多いと思いますが、オーストラリアの選手はサッカー以外にも仕事をしていますか?

AU三上「オーストラリアのトップリーグであるAリーグはプロフェッショナルであることに対し、NPL(The National Premier League)は2部リーグに相当し、基本的にはセミプロ扱いになります(極く一部の選手によっては完全にプロ契約している例外もあり)。Aリーグのプレーヤーはサッカーをすることがフルタイムの職業になりますが、NPLの場合は、通常サッカー+別の仕事をしているプレーヤーが圧倒的多数になります。女子の場合は、Wリーグ(Aリーグ女子)、WNPL(NPL女子)は共にセミプロです。男子と同様に環境も年々整備されてきて、以前の女子サッカーリーグよりも高いパフォーマンスが期待されるようになってきています」

ー チームを運営する上でスポンサーの存在も大きいかと思いますが、両国でいかがでしょうか。

NZ岩田「ニュージーランドのクラブでは、スポンサー営業などチームのマネジメントをもっと強化していけたらと思っています」

ー プロリーグのないニュージーランドではもっとプロクラブが出てくることでよりサッカーが盛り上がることが期待できますね。オーストラリアはいかがでしょうか。

AU三上「ニュージーランドも似ているかと思いますが、オーストラリアサッカーのベースとして地元に密着したコミュニティスポーツの文化が各サッカークラブを支え、それが輪になってローカルサッカーコミュニティ、そしてリーグに発展していきます。クラブのスポンサーは地元企業が多く、それはローカルスポーツカルチャーの根幹にある“地域を支える・繋げる”想いがあるからだと思います。プロクラブのように外資系企業がスポンサーや運営面に関わってくると、地元・国産型の選手を輩出する狙いのあるNPLのシステムやレギュレーションの規定から外れる可能性もあります。一時的な大口のスポンサー獲得の有無によって、NPOとして運営しているのが主であるオーストラリアの2部リーグ以下のクラブは、NPO故の運営メリットを放棄する可能性もあり、そこがAリーグとNPL以下のリーグのクラブ運営の違いや難しさなのだと感じます」

ー オーストラリアはNPLに所属するにあたり、様々な規定があるそうですね。

AU三上「オーストラリアのエリート育成の現場および、ルールやリーグレベルのカテゴライズなどを見ると、協会からの規定が厳格化されており、またそれが毎年のように変更が加えられたりもします。そこにリーグやクラブが臨機応変に対応し、指導者・選手達に落とし込むスピード感という意味では、オーストラリアサッカーの変化のフローや柔軟性は、ニュージーランドや日本の組織と比べても参考に出来るポジティブな部分は多いかもしれません」

ー 外国人選手枠はどうでしょうか。

NZ岩田「ニュージーランドで言えば、昔は制限があまりなく、外国人が多くプレーしていました。Auckland City FCは特に外国人が多く、当時はGK以外は外国人だったこともありましたが、年々、外国人枠が減っていき、今では3人だけとなり、リーグ全体のレベルも下がったように思います。外国人が減っただけでなく、リーグ自体のルールの変更なども影響していると思います」

AU三上「NPLの外国人枠は最大2人です。歴史的にもイギリスの影響を受けているので、監督、外国人枠もイギリス系の選手が多い印象です。ただ、他地域ではイタリア、ギリシャ、クロアチア系のクラブも多く、NPLクラブとしても大きな成功を収めています」

ケガから復帰後の岩田さん

岩田さんはケガ復帰後、Auckland City FCのU23チームでオーバーエイジ枠としてプレーしていた。6月10日にはU23首位のBay Olympic FCとの対戦でスタメン出場し、FWとして前線でシュートも放ちつつ、MFのような位置でも落ち着いたボール捌きでチームの動きを安定させていた。

岩田さんがチームの精神的支柱として広い範囲で活躍

岩田さんの安定感でチームの若手は伸び伸びと攻撃を仕掛け、後半は次々に得点し、4ー1で快勝という結果に。岩田さんがチームの精神的支柱として広い範囲で活躍したことが見てとれた。チームに感謝しながらも「もっと速いペースで自分の力を発揮したい」とさらに闘志を燃やしていた岩田さんだったが、この試合の直後、6月14日にはManukau United FCとの試合でAuckland City FCトップチームへの帰還を果たし、岩田さんからのボールが得点へとつながり、チームは5−0で勝利。

日本から来てどのように両国のサッカーに関わるか

ー 今後日本から来る人はどのように両国のサッカーに関わっていけるか、お聞かせいただけますか。

NZ岩田「選手としての関わりについては、ニュージーランドサッカーは今発展しているところで、スペインのポゼッションサッカーを目指しています。しかし、ポゼッションを高めることは大切なものの、何のためにポゼッションしているのか?を明確にしていないので、ボールをまわして満足してしまってるように思えます。サッカーは11人でプレーするので、ボールに近い選手の動きも大切ですが、それ以外の3人目や4人目の動きを追求することも大切です。全員が連動してポゼッションが生まれるわけで、そこの落とし込みができていないように感じていて。特に若い選手にはそう言った部分の指導も必要だと思います。技術はもちろん、頭が使えないとサッカーはできません。だから、まわりを観て頭を使いポジショニングを取り、次を予測するなど考えてプレーできるようになる必要がありますね。また、ニュージーランドサッカーへの関わり方としては、選手の他にもアシスタントコーチや運営補助スタッフ、フィジオなどの裏方も必要とされていて、様々な形でサッカーに関わって盛り上げてほしいですし、経験として持ち帰ってもらうことができるのではと思っています。日本のライセンス制度での監督資格取得に比べ、指導者ライセンスはオーストラリアやニュージーランドでは取りやすいと言えるので、それも目指すのをお勧めしたいですが、語学の壁があるので、三上さんがAFC/Football AustraliaのAライセンスを取得されたというのはすごいですね」

ー 三上さんはオーストラリアで選手と指導者の両方の経験を重ねていますよね。

AU三上「はい、今はクラブの競技面でのマネジメント全体に関わっていて、どのような選手を育てていくか、というクラブの哲学の作成などにも携わっています。協会と確認を交えながら、今のクラブにとって現実的かつ野心的なプランを構築していくのは、楽しいですが同時に責任と心身の負担(笑)も感じます。私はオーストラリア生まれで大学卒業後にオーストラリアに戻ってきました。自身の経験から思うのは、選手としてチャレンジするのであれば、日本の大学や実業団レベルで経験を踏まえてから渡豪するのが良いかもしれません。高校卒業レベルだとフィジカル的に不安があるケースが多く、2部・3部相当の厳しい外国人枠を勝ち取るのはかなりハードです。地元の選手より二、三枚上手じゃないと外国人選手としては厳しいかもしれません。私が見てきた中では、日本の大学サッカーを経験してきた選手の多くは、“心・技・体”で成熟してきており、競技面で余裕を感じさせてくれます。そこから海外生活にアジャストするメンタリティも発揮出来ている印象です。ニュージーランドもだと思いますが、ここでは地元に密着して頑張れる気持ちも必要とされ、いいことだけでなく泥くさいことも受け入れて粘り強くやっていく心構えも求められてくると思います」

ー 三上さんはどのようにして今のポジションに就いたのでしょうか。

AU三上「日本からニュージーランドに来ていきなり岩田さんのような活躍をするのが難しいように、オーストラリアでもいきなり現在取り組んでいるような仕事を、私が最初から出来たわけでは当然ありません。私も長年選手としてプレーをし、自分のビジネスを始めながら、同時進行でジュニアサッカー指導を行っていました。次第に地元クラブでジュニアディレクターの経験をするようになり、今の立ち位置に繋がっていきます。私個人の見解では、実際に行ってきたプライベートのアカデミーの活動も面白いですが、地元クラブとの関わりを通して地域全体にも関わりながら、選手や指導者をするところに今の仕事のやり甲斐を感じています」

2人のサッカーキャリア

ー 選手時代はいかがでしたか?

AU三上「先ほど地元密着とは言ったものの、私自身は競技活動の中で多くの移籍の経験があります。今振り返ると、その決断には自分の先入観や少し偏った自意識などがあったかと思いますが。『得点を取って勝利に貢献した翌週にベンチスタートは納得がいかない』と思い、そういう不信感と自分への過信が移籍に繋がったりもしました。今までチームメートだった選手が敵として容赦なく挑んで来るのを迎え撃ったり…とは言え、ああいうのは燃えたし、楽しかったです(笑)」

NZ岩田「おお、それはエキサイティングで面白そうですね(笑)。僕のクラブ遍歴は逆で、今のクラブに長く在籍しています。海外で英語を学んでサッカーもできればと思い今までは頑張れてきたのですが、年齢的にも引退のことを考える時期で。でも、むしろ期限が近づいてきたからこそ、自分の力を思い切り発揮できるペースの速いサッカーをもっとやりたいと感じ、他のチームにも好奇心が湧いてきてしまったという(笑)」

AU三上「ぜひ活躍を続けてもらいたいなと思います。40歳あたりでもトップアスリートならピーク時の85〜90%はできるんじゃないかなと思います。私の場合は足の速さには自信があり、長らく攻撃のポジションをしていましたが、ある時、縦に抜けきれない感覚がありました。そしてそれをパスの出し手や次の受け手のせいにしていると気付き、自分にベクトルを向けて守備のポジションをやってみたら、(自分的には)上手くハマった。守備を受け身とずっと思っていましたが、実は守備は攻撃的にもできるし、これまで削られる側だったのが、今度は削っていける発見もあり、全体を見ながらもそういう攻めの姿勢が発揮できるのは自分の性格にも合いました(笑)」

NZ岩田「守備はそういうところも面白いですよね(笑)。移籍に関しては、実は他のクラブのマネジメントも気になっているんです。どんななのか見てみたいというか…」

AU三上「さっきSNSで岩田さんとつながったので、マネジメントについて話せますね(笑)」

ー サッカーへの理解に深みが増したお二人の活躍が今後もすごく楽しみです。今回は対談いただき、ありがとうございました。

2020-2022シーズンに教えた生徒のTrey Kingさんと三上さん

2020-2022シーズンに教えた生徒の一人(Trey King)。オーストラリア人だが、フィリピン国籍もあり、三上さんのアドバイスとネットワークでフィリピンの育成年代の代表チームにチャレンジし、昨年U16フィリピン代表キャンプにも選出されたそう。三上さんは、選手のバックグランドやプレースタイルに沿ったプレーヤーディベロップメントのメソッドも活かし、指導の実践、選手キャリアのサポートを重ねているそうだ。

岩田さん

「引退までにもっと試合に出たい、自分の力を思い切り発揮できるトップリーグで戦いたいと思っています」と語る岩田さん。どんなキャリアを辿るのか、彼の今後に注目だ。

2023年7月号掲載
Text: GekkanNZ

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