賃貸ペット飼育で初の重要判断ニュージーランドで「ペット可」原則を明確化

賃貸ペット飼育で初の重要判断 ニュージーランドで「ペット可」原則を明確化 LIFESTYLE

対立する双方の懸念を一つずつ解消し、合意点を探る――
そんな調停的な発想が、ニュージーランドの賃貸住宅制度にも持ち込まれつつある。テナンシー・トライビューナル(賃貸紛争審判所)はクライストチャーチの大家が入居者の子犬飼育申請を拒否した件について、初めての重要な判断を下した。

ニュージーランドの賃貸住宅制度で2025年12月に施行された新しいペット飼育ルールについて、初めての重要な判断が下された。テナンシー・トライビューナル(賃貸紛争審判所)は、クライストチャーチの大家が入居者による子犬の飼育申請を拒否したことについて、「合理的な理由がない」と判断し、飼育を認めるよう命じた。

このケースでは、入居者が「ゴールデン・ラブラドール」の子犬を飼いたいと申請したが、大家は「庭に十分な囲いがない」「デッキから転落する危険がある」「近隣への騒音が心配」などの理由で許可しなかった。しかし審判所は、こうした懸念の多くは適切な対策によって解決可能であり、拒否の根拠としては不十分だと判断した。

この判断を理解するうえで参考になるのが、メディエーション(調停)で用いられる問題解決の考え方である。AとBが対立し、解決策を見いだせず、その結果として双方が不利益を被る状況では、調停官はまず、双方に解決策へ同意できない理由や懸念点をすべて挙げさせる。その後、それらを一つずつ議論し、それぞれについて具体的な解決策や妥協案を検討する。こうしてすべての懸念点が解消されれば、反対する理由はなくなり、合意に至る可能性が高まる。

この手法の本質は、「誰が正しいか」を決めるのではなく、「双方が納得できる着地点はどこか」を探る点にある。対立が続く場面では、当事者同士がそれぞれの主張を繰り返すだけで、話がまったく前に進まないことが多い。しかし、懸念点を一つひとつ切り分けて検討すると、実は解決可能なものと、譲れないものとが見えてくる。多くの場合、感情的な対立に見えても、具体的な懸念点自体は、条件面の調整によって解消できることが少なくない。

今回のテナンシー・トライビューナルの判断も、まさにこの発想に近い。大家が抱いていた懸念(囲いの不足、転落の危険、騒音)について、審判所は単純に「正しいか、間違っているか」を一方的に決めたのではなく、「保証金」「フェンス設置」「常時監督」といった具体的な条件によって、それぞれの懸念を解消できるかどうかを一つずつ検討した。対立を勝ち負けで終わらせるのではなく、双方が受け入れられる条件を積み上げていく。この考え方は、今回の新しいペット飼育ルールの運用にも、そのまま生かされていると言えるだろう。

今回の判断で特に重要なのは、新しい法律の基本的な考え方が明確に示された点である。従来は大家が「ペット禁止」とすることが一般的だったが、法改正後は「ペット飼育を認めること」が出発点となった。大家が拒否する場合には、合理的で具体的な理由を示さなければならず、その立証責任も大家側にある。

ペットが人々の生活の安定や社会的つながり、精神的な健康に果たす役割の大きさを考えれば、こうした制度変更は自然な流れとも言えるだろう。実際、審判所のブレット・カーター主席審判官も、今回のペット同意ルールは「一律のペット禁止方針からの意図的な転換であり、大家が合理的な場合に限り拒否できるようにしつつ、入居者がペットを飼いやすくすることを意図したものだ」と指摘している。

また、今後の判断基準として二段階の審査方法も示された。まず、大家がなぜ許可を拒否したのか事実関係を確認する。次に、その理由が本当に合理的かどうかを評価する。単なる憶測や一般論ではなく、その物件、そのペット、その地域環境に基づく具体的な根拠が求められる。例えば、「庭が小さい」「フェンスがない」というだけで犬の飼育を拒否することはできない。犬種や大きさ、しつけの状況などを個別に検討しなければならない。また、フェンス設置などの条件を付けることで問題が解決できるなら、まず条件付き許可を検討すべきだとしている。

今回の入居者は、ペット保証金の支払い、犬の常時監督、退去時の専門清掃、損害賠償責任の負担、追加点検の受け入れ、仮設フェンスの設置などを提案していた。しかし大家はそれでも拒否したため、審判所は「懸念を解消するための条件を十分に検討していない」と判断した。

この判決は、今後の賃貸住宅におけるペット飼育問題の重要な先例となる見通しだ。大家には誠実な検討と明確な書面説明が求められ、入居者側にとってはペットを飼う権利がこれまで以上に保障されることになる。ニュージーランドでは、賃貸住宅においてもペットとの暮らしを支援する方向へ大きく舵が切られたと言えそうだ。

西村さん
ローズバンク法律事務所
弁護士 西村純一

オークランド大学法学部卒業後、ニュージーランドで初の日本人弁護士となる。
Web: https://www.rosebanklaw.co.nz
Email: contact@rosebanklaw.co.nz
Phone: 09 820 0154

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