薬剤師から専業主婦を経てファーマシーテクニシャンへ。旅行で訪れたニュージーランドの町の美しさに感動したMahoさんは、ワーキングホリデーで改めてニュージーランド生活を満喫。一度は日本帰国を果たすも、子どもの教育のため、再度ニュージーランドでの生活を始めた。日本での薬剤師としてのキャリアを活かし、ブランクがあっても輝けるセカンドキャリアを築いたMahoさんに、「ファーマシーテクニシャン」という日本ではなじみのない職業について、薬剤師との違いから資格の取り方まで、お話を伺った。
Q. ニュージーランドへ来たきっかけは何ですか?
旅行で訪れたニュージーランドに魅了され、その翌年に仕事を辞めてワーキングホリデーに来ました。働きながらニュージーランドを旅行して周りたいとは思っていましたが、当時はホリデー感覚でした。その後国際結婚をして、しばらくは日本に住んでいましたが、長女が小学校に入学するタイミングでまたニュージーランドに戻ってきました。
日本の学校も悪くはないのですが、ニュージーランドでのんびり教育を受けられたらいいなという思いがありました。また、バイリンガルに育てることで、子どもが将来進む道の選択肢を増やすこともできると思って決断しました。
Q. ニュージーランドに来る前はどんなお仕事をされていましたか?
大学卒業後に薬剤師として働いていました。
勤務していた総合病院の門前薬局は、患者数が多く毎日とても忙しかったです。
処方箋調剤や服薬指導のほかに、在宅医療チームに携わり、医師や看護師と一緒に在宅訪問をして薬の提供、相談を受けたりする仕事もしていました。薬局ではいかに早く、なおかつ正しい処方薬を患者さんに渡すかが課題でしたが、訪問介護では対照的に、じっくり患者さんと接することができてよかったです。
ニュージーランドに移住してからは長いこと主婦をしていましたが、3人目の子が2歳になった頃、また何か医療に関わる仕事がしたいと思いました。ファーマシーテクニシャンのコースに通って資格を取り、現在に至ります。
Q. ファーマシーテクニシャンの主な仕事内容について教えてください。
ファーマシーテクニシャン(薬局技術者)は、薬剤師の監査の下で、薬局業務を円滑にするための役割を果たしています。 業務の内容は幅広く、処方箋内容のコンピュータ入力、処方内容や履歴のチェック、ラベル作成、薬の調剤などです。調剤した薬は、患者さんに渡す前に、必ず薬剤師がチェックを行います。疑義があれば処方医に確認することもあります。患者記録や医療費請求のファイリング、医薬品の在庫管理や発注などの医療事務業務も行っています。ニュージーランドのコミュニティ薬局では予防接種ができるところも多いですが、訓練を受ければファーマシテクニシャンが予防接種を打つこともできます。


ファーマシーテクニシャンが調剤などの技術的な業務を担うことにより、薬剤師がより臨床的な分野に従事できるというメリットがあります。病院や処方箋応需の多いコミュニティ薬局ではファーマシーテクニシャンが常勤しているところが多いです。
ファーマシーテクニシャンは日本では公的な資格ではありませんし、まだあまり馴染みがないと思いますが、ニュージーランドではNZQA(New Zealand Qualifications Authority、ニュージーランド資格認定局)承認資格です。「薬局で調剤することができるのは薬剤師とファーマシーテクニシャンだけ」と法律で決まっています。
現在私が働いている薬局は、主に市内の老人施設や介護施設の患者さんを対象に、調剤と薬の配達をしています。錠剤やカプセル薬は自動分包機で一包化調剤をして渡すことがほとんどです。
処方箋だけではなく、服薬管理システムを使って医師、看護師、介護士と連携して薬の調剤、投薬をしています。服薬状況も把握できるので過剰調剤を防ぐこともできます。
また私は昨年、Aseptic Compounding(無菌調整)のコースを受け、薬局でシリンジポンプの調合をする業務を担うようになりました。緩和ケアの疼痛コントロールのための注射薬です。ファーマシーテクニシャンが薬局内でシリンジポンプの調合をしているところはまだ少ないようです。
Q.ニュージーランドでファーマシーテクニシャンとしての仕事はどのように探しましたか?
資格コース中の実習期間に働いていた薬局の薬剤師に勧められた薬局があったのですが、たまたまそこで求人をしていて、応募したらタイミングよく就職が決まりました。その頃は末の子がまだ小さかったので週3日のパート勤務でした。まだニュージーランドでの実務経験がなかったこともあり、その薬局では主に分包機で調剤をするポジションについていました。日本でも分包調剤の経験があったので、特に苦労もなく仕事を覚えられましたが、一日中体を動かす、かなりのフィジカルワークでした。コロナの頃にはロックダウンの中、薬局スタッフはチーム交代制で勤務していたので、少ない人数で業務をこなすのが大変でした。
私は資格をとってから7年ほど経ちますが、既に3回転職しています。自分のステップアップのために別の職場に移ることは珍しくなく、いろいろな経験を積むことができます。経験が多いほど転職がしやすくなります。また薬局業界はとても狭いので、同業者のコネクションで仕事が見つかることも多いです。
Q. ニュージーランドでファーマシーテクニシャンとして働くために必要な資格、あった方がいい経験などがあれば教えてください。
ニュージーランドでファーマシーテクニシャンとして働くには、専用のコースに通って資格を取る必要があります。私は日本の薬剤師免許を持っていますが、私のように外国で薬剤師をしていた人も、同様にコースに通う必要があります。また、非英語圏出身者が入学するには、英語のIELTSテストも受ける必要があります。
オークランドにはいくつか学校がありますが、私はKauri Academyというパートタイムで通える学校を選びました。当時は国外で医療の経験があることが入学条件でしたが、今は準備コースもあるので誰でも入学できるようです。資格レベル5の履修過程で、レベル3(Pharmacy Assistant、薬局アシスタント)とレベル4(Pharmacy Technician Core、制限付きファーマシーテクニシャン)の資格も取ることができます。
授業では人体解剖学、薬理学、薬局法などのほか、コミュニケーションスキルを上げるロールプレイなどのクラスもあります。また軟膏を混ぜたり薬を計量する実習もあります。私は資格取得まで1年4カ月ほどかかりました。
Q.「ニュージーランドで働く」ならではの楽しさや魅力、やりがいについて教えてください。
ニュージーランドは多文化社会なので、職場にもいろんな人種の同僚がいて興味深いです。皆考え方がバラバラですが、それぞれ自分の仕事に責任を持っています。
自分の仕事でできないことは無理をせず、遠慮せず他の人に頼るようにします。また忙しい職場内でも皆雑談をして和やかな雰囲気を作ろうとするので、日本よりもピリピリとした雰囲気は少ないように思います。忙しくても午前と午後の休憩は必ず取るようにして、コーヒーを飲んだりして気分転換をします。
また、パーティー好きの文化なので、シェアランチやクリスマス会をしたり、スタッフの誕生日にはケーキがふるまわれたりもします。
Q. また反対に大変なことや難しいと感じる部分はありますか?
異なる文化圏出身の人たちと一緒に働くと、仕事に対する意欲に温度差があるので、自分がこうあるべきと考える仕事の質や量と同じものを相手に求めることが難しいです。大きな薬局で働くとチームワークが大切になってきますが、チームワークよりも自分を優先し「私はできない、だからできる人がやればいい」というのが当たり前の考え方の人もいます。そういう考えが尊重される社会なので、正直、納得がいかないなと感じることもあります。日本では皆、与えられた仕事をするのが当然なので、海外で働いてみると、日本人は本当に真面目だなーと常々思いますね。
また、何年住んでいても英語面での苦労は絶えません。患者さんが薬を取りに来ても、名前を聞き取れなかったり、スペルが分からなかったりするので、初めは名前を紙に書いてもらっていました。電話対応もなかなか慣れず、相手の言うことが聞き取れないこともありました。また薬の名前がやたらと長かったり発音が難しいものもあり、いまだにどう読むのだろう?と戸惑うこともあります。しかし、同僚も英語のネイティブじゃない人が多いので、英語で差別をされると感じることは少ないかもしれません。
Q. ニュージーランドと日本での働き方の違いなどはありますか?
ニュージーランドの職場環境は日本と比べてゆるい部分が多いので、働きやすいのかなとは思います。
正社員やパートタイムの区別がなく、その時に従事しているスタッフがチームワークでうまく回しています。時間の融通がきき、遅刻したり早退したりがしやすいですので、働きながらでも子供の学校の行事に参加することができます。子供の病気で仕事に行けない日も自分の病欠扱いで休むことができます。皆自分の家族やプライベートを大事にしています。仕事のオンとオフがはっきりしていて、基本的に残業がなく、有給も取りやすいので、長期休みをとって日本に帰国したりもできます。
Q. オフの日や仕事終わりの過ごし方はどのような感じですか?
休みの日はヨガをしたり、友人とカフェでお茶をしたり、子供と過ごしたりしています。歩くのが好きなのでよく公園やビーチを散歩しています。
平日の仕事の後は子供の習い事の送迎に追われています!
Q. 最後に、これからニュージーランドでファーマシーテクニシャンをやりたいと考えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
私は日本で薬剤師の経験がありましたが、ブランクが長かったので脳のブラッシュアップのためにも!という気持ちでコースに通いました。クラスメイトはニュージーランドで永住権を取ることを目標にこの資格を取る人がほとんどでした。この職種はまだまだ需要が多いので資格さえあれば就職先も見つけやすいです。学校に通わずとも、薬局で見習いとして働きながら自分のペースで学べるOpen Polytechnicのオンラインコースもあります。私の勤める薬局にも3人の見習いテクニシャンがいます。勉強しながら給料をもらい、経験も積めるのでお勧めです。ただ学校に通うよりは資格を取るまで時間がかかってしまいます。薬剤師や看護師よりも比較的取りやすい資格なので、医療に興味のある方は挑戦してみる価値があると思います。

ファーマシーテクニシャン
Mahoさん
神奈川県出身。日本での薬剤師歴10年余。1999年、兄夫婦がワーキングホリデーでクィーンズタウンに住んでいたときに旅行で訪れ、町の美しさに感動する。2000年に自分もワーホリで南島のネルソンに渡り、2ヶ月間語学学校に通ったのち、国内各地へバックパッカーの旅に出る。その間エクスチェンジワークをしたり、フルーツピッキングの仕事をしたりしながらニュージーランド生活を満喫。国際結婚後日本へ帰国し6年住み、出産育児を経て2008年にニュージーランドに戻り移住する。2013年からオークランド在住。家族は娘1人と息子2人。ダンスやヨガなど体を動かすのが好き。
取材・編集 GekkanNZ
この記事の内容は個人の過去の体験談です。必要な場合は、最新の情報をご確認ください。