ニュージーランド移住はハードルが高くない!日本で歯科医師をしていたYuさんは、子どもの将来のためニュージーランドへの移住を決意した。移住後一度は専業主夫になるも、古巣の歯科医療業界へ再挑戦、見事難関を突破して歯科医師に返り咲く。現在はワークライフバランスの取れたニュージーランドの歯科医院で、仕事もプライベートも充実した生活を送っている。そんなYuさんに、ニュージーランドの歯科医療の特徴や、難易度の高い外国人歯科医師向け試験、歯科医師資格を取るまでのおすすめのパスウェイ、諸外国の大学教育についての考察まで、幅広くお話を伺った。
Q. ニュージーランドへ来たきっかけは何ですか?
2005年に、妻の故郷のウェリントンで結婚式を挙げました。その時に街並みのきれいさに感動し、以来いつか住んでみたいと漠然と思っていました。
当時は日本に住んでいたのですが、3人の子どもが生まれてから夫婦で話し合い、ニュージーランドで生活した方が子どもたちの将来にとっていいのではないかとの結論に達しました。その頃、偶然、ニュージーランドで事業を経営している日本人の方とお話しする機会があり、ニュージーランドでは選ばなければ仕事を見つけることがそれほど大変ではないことを教えてもらいました。その時自分は30代後半で、新しいことを始めるなら年齢的にこれがラストチャンスだと思い、すぐに職場に退職の相談をしました。こちらに引っ越してきたのは2011年です。
Q. 歯科医師の仕事内容について教えてください。
Lower Huttにある歯科医院で歯科医師として働いています。主な仕事内容は、定期健診や、虫歯や歯周病の診療です。
多くの歯科医院では、歯科医師(dentist)、歯科助手(dental assistant)、歯科衛生士(dental hygienist)が働いています。歯科医師は歯科治療を、歯科助手は歯科医師の補助業務を、歯科衛生士は歯周病治療における歯石取りを行っています。日本とちょっと違うのは、歯科衛生士は歯科医師から独立して仕事ができることで、歯石取りの際の麻酔なども自分でできるんです。
またニュージーランドにはDental therapistという日本ではなじみのない職種もあり、以前は子どものみという制限がありましたが、現在は大人も含めて詰め物のような簡単な虫歯治療の一部を行うことができます。以前はDental nurseと呼ばれていました。通常は、地域の特定のDental therapist専用の施設で18歳以下の子供の歯科検診や治療を行っています。
ニュージーランドの歯科医師は、他の職種の方と同じで1日8時間勤務ですが、勤務日数は週4日が一般的です。また、日本では歯科医師の大多数が開業していますが、ニュージーランドの歯科医師は大部分が勤務医です。
ニュージーランドではDental therapistの施設では18歳以下の歯科治療は無料ですし、13歳から18歳の子どもは、定期健診や治療を一般の歯科医院でも年に1度受けることができ、治療費は大部分が無料となります。しかし、18歳を超えるとすべて自費治療となるため、患者さんの数は景気の変動に影響されることがあると思います。実際に、歯科医院の受診率は収入に比例するというデータがあります。

Q. ニュージーランドでの仕事はどのように探しましたか?
日本で歯科医師として働いていたものの、実は、移住を決めたときは、ニュージーランドでは歯科医師になるつもりはありませんでした。歯科医師になるためのハードルがあまりにも高すぎたからです。当時の自分には、難易度の高い現地の歯科医師の資格試験を受けるだけでも気が遠くなるようなことで、英語で歯科診療をする自分をイメージすることなど全くできませんでした。また、日本での歯科医師生活が多忙で疲れ切っており、移住後は歯科医師以外の職に就くのもいいのではないかと考えていました。
移住後最初の4年間は、妻が助産師になる勉強をしていたため、自分が3人の子供の面倒をみながら専業主夫をしていました。その間にある程度英語力がついてきたので、2015年にオタゴ大学の外国人歯科医師ブリッジングコースを受講してみることにしました。2年後に歯科医師試験に受かったのですが、IELTSでつまづき、実際に歯科医師として働き始めたのは2018年からです。
就職先はネットで探しました。歯科医師は資格を取るまでは大変ですが、資格があれば就職にはそんなに苦労しないと思います。
英語のハードルについては、他のアジアの国をうらやましく思うこともありますね。アジアの中でも、日本、中国、韓国では大学教育を自国語で行っていますが、実はそれ以外の国々では英語で行うのが一般的のようなんです。例えばインド人は自国の大学で英語で教育を受けてきているので、結果として英語圏で働くハードルは日本や中国と比べて非常に低い。英語圏の国でインド人の医師や歯科医師が多いのは、こういう構造があるからなんです。
Q.ニュージーランドで歯科医として働くために必要な資格、あった方がいい経験などがあれば教えてください。
日本人がニュージーランドで歯科医師を目指す場合、2通りの方法があります。
1つ目は、オタゴ大学の歯学部に入学すること。大学を卒業したら歯科医師として働くことができます。
2つ目は、日本で歯科医師免許を取得し、その後ニュージーランドかオーストラリアのデンタルカウンシルが主催する外国人歯科医師向けの試験に合格することです。外国人歯科医師向けの試験は、筆記試験は年に2回受験のチャンスがありますが、実技試験は年に1回、運が悪いと2年に1回しか受けられません。更にこれらの試験に合格した後、ラスボスのIELTSで7.5以上を取ると、初めて歯科医師として働く許可がおります。自分はIELTSの試験に通るのに一番苦労しました。
Q. 「ニュージーランドで働く」ならではの楽しさや魅力、やりがいについて教えてください。
日本で働くのに比べ休みが多く取れ、ワークライフバランスが優れているのがニュージーランドで働く一番の魅力だと思います。
あるアメリカの歯学部の教授とお話した時に、世界中で歯科医師の労働条件が一番悪いのが日本、イギリス、ブラジルだと彼が言っていたのが印象に残っています。自分が日本で働いていたころは、忙しいときは2日間子供と会わなかったこともありました。
日本でもニュージーランドでも、患者さんが心から喜んでくれた時が一番うれしいです。それが一番のやりがいになります。
Q.また反対に大変なことや難しいと感じる部分はありますか?
大変なことは、ニュージーランドでは様々な国から来た色々な患者さんを診るということです。歯科医師や歯科治療に対する考え方、経済状況、食習慣や日常生活など、何もかもが違う環境で過ごしてきた人達と接し、多様な患者さんそれぞれに実際に歯科治療という特殊な行為を行うのは大変です。
また、英語による円滑なコミュニケーションは自分が外国人である限り永遠の課題だと感じていています。
Q. オフの日や仕事終わりの過ごし方はどのような感じですか?

早く家族の元に帰りたいので、仕事が終わったら自宅へ直行しています。その姿を見た同僚からは「ブレットトレイン(新幹線)」とからかわれています。
休みは週2日半ですが、家でゆっくりするか、妻の仕事が自分以上に忙しいので、家事をしたりしています。
日曜日は午前中に弓道をしています。
Q. 最後に、これからニュージーランドで歯科医師として働きたいと考えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
もし日本の歯科医師の方でニュージーランドで働きたいという人がいるならば、まず日本で働きながら英語力を高めることをおすすめします。最低IELTS6.5以上の英語力がないと、そもそも外国人歯科医師向け筆記試験を受けるのさえ厳しいからです。英語の実力がついたら外国人歯科医師向けの筆記試験受験の準備に取り掛かり、筆記試験に受かった時点で休職、実技試験の勉強に1~2年専念しましょう。ニュージーランドに引っ越してくるのは、晴れて実技試験に合格してからでも遅くありません。
自分は外国人歯科医師向けの筆記試験の準備のため、毎日10時間、10カ月間勉強しました。それくらいやらないと、ブリッジングコースの授業にもついていけませんでした。自分以外のクラスメート全員が、すでに英語で歯科教育を受けたことがある中、自分はただ一人辞書を片手に英語の専門用語を一から勉強していたからです。ブリッジングコースでは、インド人のクラスメートにずいぶん助けられました。友人の助けがなかったらすんなり成功できなかったかもしれません。
外国人歯科医師向けの試験の合格率は、自分が受けたときは筆記が30~40%、実技が10%程度と言われていました。今はそれよりも厳しいそうです。若く優秀な方にとってはそれほど大変ではないかもしれませんが、難易度の高い試験であることは事実です。それなりの覚悟をもってしっかり計画を立てて臨むことをおすすめします。

歯科医師/【Wellington】
Yuさん
群馬県出身。広島大学歯学部卒業。2011年に家族でニュージーランドに移住。4年間の専業主夫を経験し、2015年にオタゴ大学ブリッジングコースを受講。2017年にオーストラリアデンタルカウンシル主催の外国人歯科医師免許試験(ADC dental practitioner assessment)に合格、2018年よりウェリントンにて歯科医師として勤務。今はLower Huttの歯科医院で働いている。現在の趣味は漫画、アニメ鑑賞。特技は柔道初段、弓道初段。
[Web] www.fisherdental.co.nz
取材・編集 GekkanNZ
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