ニュージーランド国内にとどまらず、世界中に生徒を持つスーパー日本語教師・岡本さん。学生時代に大学のキャンパス内で個人指導を始めたが、クリエイティブに可能性を広げられる起業に踏み切ることで、日本語教師としての活路を見出したそう。テクノロジーを味方につけて、子育てと両立しやすい、自由度の高い働き方を実現した岡本さんに、日本語教師として生計を立てていくヒントや、ニュージーランドでスモールビジネスを起こすことの魅力についてお話を伺った。
- Q. ニュージーランドへ来たきっかけは何ですか?
- Q. ニュージーランドに来る前はどんなお仕事をされていましたか?
- Q. 日本語教師をされているそうですが、岡本さんのところに日本語を習いに来る生徒さんはどんな方たちですか?
- Q. ニュージーランドで日本語教師として働くために必要な資格、あった方がいい経験などがあれば教えてください。
- Q. 日本の日本語教師養成講座では直接法(学習者の母語、例えば英語などを使用せず、日本語だけで日本語を教える教授法)を学ぶことが多いようです。海外で日本語教師をしている方の多くが間接法(学習者の母語で日本語を教える教授法)を使用しているようですが、直接法を学ぶメリットはありますか?
- Q. 日本語教師として起業されたとのことですが、起業に踏み切ったきっかけを教えてください。
- Q. 起業するにあたり必要な知識はどのように学びましたか?
- Q. 日本語教師として起業することのメリット・デメリットを教えてください。
- Q. 日本語教師は海外移住邦人の憧れだと思いますが、同時に「専業では食べていくのが難しい」というイメージのある職業でもあります。どうすれば日本語教師で生計を立てられるようになるでしょうか。
- Q. 「ニュージーランドで働く」ならではの楽しさや魅力、やりがいについて教えてください。
- Q. オフの日や仕事終わりの過ごし方はどのような感じですか?
- Q. 最後に、これからニュージーランドで日本語教師をやりたいと考えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
Q. ニュージーランドへ来たきっかけは何ですか?
きっかけは2011年3月の東日本大震災と交通事故に遭ったことです。その2つの出来事で、「いつ、何が起こるか分からない…」という現実を直に感じました。特に交通事故で足を骨折し、回復するまでの安静の期間に、自分と向き合う機会がありました。その間、海外移住体験談を読んだり、自分の人生について考えたりしました。そこで、「いつかやりたいこと」を今やろうと決意し、2011年11月にオークランドへ移住しました。
ニュージーランドを選んだ理由は、海外旅行を通じて得た経験からです。アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、インド、フィリピンなどを訪れましたが、その豊かな自然とおだやかな人々に惹かれ、ニュージーランドを移住先として選びました。
Q. ニュージーランドに来る前はどんなお仕事をされていましたか?
移住前は日本語教師とは全く関係のない仕事をしていました。総合物流企業に会社員として勤務し、日本車を海外に輸出するクライアントへの手続き業務や営業サポート、役員秘書をしていました。
Q. 日本語教師をされているそうですが、岡本さんのところに日本語を習いに来る生徒さんはどんな方たちですか?
私のレッスンを受けに来る生徒さんは、主に30代前後の会社員や経営者の方々です。カップルでレッスンを受けに来る方もいます。提供している日本語オンラインコースにはさまざまな国籍の受講生がいます。(以下の地図が生徒さんの国です)
目標はさまざまで、日本に住みたい、旅行、または日本語能力試験などが挙げられます。毎年日本に旅行する生徒さんが多いです。レッスンでは、中学生以上の学生を対象にJLPT(日本語能力試験)の対策や、進学のためのIB Japaneseレッスンも提供しています。
Q. ニュージーランドで日本語教師として働くために必要な資格、あった方がいい経験などがあれば教えてください。
学校や語学アカデミーなどで雇ってもらう場合でしたら、日本語教師の資格や日本語教師養成講座修了証などが採用基準だと思います。一方で、私のように、自分で外国人向けに日本語の先生を始める場合は、特別な資格はいりませんよ。
ただし、どんな場合でも、日本語の仕組みをわかりやすく説明するスキルは必須です。日本で育った私達にはそもそも日本語のルールという概念はあまりありません。生まれた時から自然に聞いて丸暗記してしまうため、日本語の仕組みは無自覚です。だからこそ、生徒さんから「この活用ってどうなってるの?」と聞かれて説明できるように勉強しておく必要があります。
資格ではありませんが、さまざまな人と関わる経験は役立つと思います。教える生徒さんにはさまざまな価値観の方がいます。年齢や性別に関わらず多くの人と関わることで、話を聞く傾聴力や、人に何かを教える力が身につきます。
また、何か1つでも日本文化を体験しておくことも大切です。日本語教師は日本文化を伝える役割もありますからね。私は唐揚げパーティや書道体験会を開催したこともあります。レッスン中の話のネタにもなるでしょう。
英語力に関しては、意識せずに無意識で話せるレベルになると楽しく仕事が出来ると思います。
Q. 日本の日本語教師養成講座では直接法(学習者の母語、例えば英語などを使用せず、日本語だけで日本語を教える教授法)を学ぶことが多いようです。海外で日本語教師をしている方の多くが間接法(学習者の母語で日本語を教える教授法)を使用しているようですが、直接法を学ぶメリットはありますか?
私の場合は、教え方はさまざまなやり方を試して試行錯誤しながら身につけました。初級者には間接法、上級者には直接法というアプローチをしています。
直接法を学ぶメリットは、immersion method(イマージョン学習法、没入法)に特化した学校での採用のチャンスがあがる点だと思います。immersionは「浸すこと」の意味で、学習対象の言語を、その言語環境に浸りきった状態で学習することで、マスターさせようとする学習方法です。解説も日本語を使って行うので、直接法を知っていると重宝すると思います。
Q. 日本語教師として起業されたとのことですが、起業に踏み切ったきっかけを教えてください。
日本語教師のビジネスを始めたきっかけは、大学時代のコロンビア人の友人から提案されたことです。その友人は特技を活かしてギターの先生のアルバイトをしていたのですが、私に「日本人なら日本語を教えてみたら?」というアイデアをくれました。友人からTutor(個別指導)のウェブサイトを紹介してもらい、大学のキャンパス内で外国人に日本語を教える副業を始めました。大学を卒業した後も、現地企業でパートタイムの仕事をしながら日本語のレッスンを続けました。その後、生徒数が増えてきたタイミングで、パートタイムの仕事を退職し、本業として日本語教師としての活動に専念することにしました。
Q. 起業するにあたり必要な知識はどのように学びましたか?
ニュージーランドの労働省やIRDがパートナーとなっているBusiness Mentors New Zealandでメンター制度を利用しました。この制度の魅力は、自分の苦手や乗り越えたい分野にマッチしたメンターを紹介してくれる点です。「メンター(Mentor)」とは、直訳すると「良き指導者」や「相談者」、「恩師」などという意味を持つ言葉です。私はネットが苦手だったので、テクノロジーに特化した会社の社長さんをメンターとして学びました。良いメンターをもつことは、キャリアだけでなく自己成長につながるのでオススメですよ。
ビジネス関連の本もたくさん読みました。今はニュージーランドに住んでいても、日本語で書かれた本をKindleで読めますからね。本は、たくさんの知識とともに、経験を追体験できます。そこでヒントを得ながら、日本語教師ビジネスにどうやって応用できるか考えて、実践していきました。
Q. 日本語教師として起業することのメリット・デメリットを教えてください。
起業のメリットは、自分次第で可能性が広がるクリエイティブな部分がある点や、自由度だと思います。自分自身のアイディアを活かして、独自のサービスやコースを提供することが可能です。仕事のスケジュールも決めることができます。私は、子育てと両立しながら「おかえり」が言えるライフスタイルを送りたかったので、起業して本当に良かったと思っています。
デメリットは、学校などに就職する場合と比べて、自分で決めないといけないことが多い点です。ビジネスの戦略や方向性など様々な決断が求められます。でも、経験とともに自分なりの判断基準を持てば、スムーズに決断できるようになるかと思います。
起業することのメリットとデメリットは、個人の価値観やライフスタイルによって異なります。自由度や可能性の広がりを求める方や、柔軟な働き方を望む方にとっては、起業することが良い選択肢となるかもしれません。しかし、「日本語指導のみ」したい方には向いていない気がします。
Q. 日本語教師は海外移住邦人の憧れだと思いますが、同時に「専業では食べていくのが難しい」というイメージのある職業でもあります。どうすれば日本語教師で生計を立てられるようになるでしょうか。
このテーマについては詳しく語り始めると長くなってしまうので、ポイント一つに絞ってお伝えしますね。それはテクノロジーを活用することです。日本語教師として時間や自力でできることには限界があるから、テクノロジーに頼っていきましょう、ということ。
たとえば、教材作成や授業準備で人工知能のAI(Artificial Intelligence)を活用すればほんの数秒で例文を出してくれます。テクノロジーを味方につけて、自分にしか出来ない価値を提供することが秘訣です。また、ネットを活用して動画コンテンツを配信するなど、労働時間に比例しない収入を早い段階で作ることも重要課題です。授業を提供してその単価で稼ぐ方法だと、時間的な限界があります。しかし、オンデマンド型授業(あらかじめ準備された動画レッスン)を提供すれば、世界中の生徒さんにレッスンを提供することができます。私の場合は、日本語オンライン講座が10コースほどあり、生徒さんが好きな時間に学習しています。
この方法を組み合わせることで、日本語教師としての収入を安定させることができます。
詳しく学びたい方は拙著『ネットを味方につけて食べていける日本語教師になる方法: 10年続くビジネスを目指そう!』(電子書籍)をご一読いただければ幸いです。ぜひ、参考にしてみてくださいね。
Q. 「ニュージーランドで働く」ならではの楽しさや魅力、やりがいについて教えてください。
生徒さんの成長が間近で見られることがやりがいです。たとえば、生徒さんが試験に合格したり、日本での就職やワーキングホリデーが決まったニュースを聞いたときはとても嬉しい気持ちになります。日本語教師はそういった精神的報酬が高い職業の一つだと思います。
クリスマスは閑散期なので、毎年1ヶ月ぐらいホリデーをとっています。だから、仕事とプライベートのバランスを取りやすい環境です。
Q. オフの日や仕事終わりの過ごし方はどのような感じですか?
仕事終わりやオフの日には、オーケストラ鑑賞や韓国ドラマの視聴、サウナや瞑想、ヨガなど、リラックスや趣味の時間をもっています。また、ときどきRetirement villageのラウンジでピアノ演奏します。
Q. 最後に、これからニュージーランドで日本語教師をやりたいと考えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
実は、日本語教師はパソコンさえあれば今からでも始められます。まずは一対一のレッスンを試してみて、自分に合うかどうかを確かめましょう。日本語教師を仕事にしていきたいという確信が持てたら、理想のキャリアを明らかにし、現実とのギャップを把握します。どんなギャップがあるのか、どうしたら埋めていけるか、ということです。ギャップを埋めるためには、自分に合った方法を見つけて、できることから進んでいくことが大切でしょう。考えているだけでなく、行動して理想のキャリアに近づけていくのです。
そして、もし迷ったら自分の気持ちをやる方向に傾けるようにしましょう。なぜなら、やらない後悔はあとで後悔する場合もあるから。この記事があなたの一歩踏み出すきっかけとなれば幸いです。
日本語教師
岡本彩奈さん
神奈川県湘南出身。Graduate Diploma in Businessオークランド工科大学卒業。2011年、ニュージーランドへ単身渡航。2013年外国人向け日本語教室 ”Auckland Japanese Tutor ”をオークランドに設立。対面とオンライン日本語レッスンの両方を提供している。2017年ニュージーランドの資格Certificate in Small Business Management取得。
日本語指導は、長い海外経験から日本語教育業界の枠にとらわれない視点・考え方で、自己成長を促すスタイルが特徴。全くの初心者から、日本で就職できるレベルにまでなった生徒が続出。生徒からは「日本語の知識が豊富でフレンドリー」と定評がある。
【実績/Performance】
- 過去10年間で約2,000人以上の外国人受講生への日本語学習を支援
- 経営者・エンジニア・専門職の社会人を対象としてプライベート日本語レッスン実績10,400時間以上
- アサヒビール(ニュージーランド支店)、空手道場、科学関連の会社、ベンチャー企業などにて社員研修会
- 独自の日本語オンライン講座シリーズ(外国人向け動画レッスン初級から上級レベルまで)開発および販売
- 電子書籍『ネットを味方につけて食べていける日本語教師になる方法』出版
【youtube】https://www.youtube.com/@HappyJapaneseTutor
https://www.youtube.com/@aucklandjapanesetutorAyana
【Website】https://aucklandjapanesetutor.co.nz/
【お問い合わせ】https://aucklandjapanesetutor.co.nz/contact-japanese-tutor/
取材・編集 GekkanNZ
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