ラグビーワールドカップから考える国際的ラグビー経験の重要性

ラグビーワールドカップから考える国際的ラグビー経験の重要性SPORTS

2022年11月号掲載

ラグビーワールドカップ 2021で死闘を繰り広げる女子日本代表「サクラフィフティーン」。ニュージーランド代表「ブラックファーンズ」の試 合では 7人制選手のファインプレーが目立ち、強豪国以外の躍進も見られた。国際舞台で活躍するトップ選手になるには、若いうちか ら世界レベルの相手と戦うなどの経験が重要。7人制ラグビーの国際高校大会でアジア系の選手が多く所属するNew Zealand Asian Barbarians (NZAB)を率いる名富朗さんに、W杯の見解と留学の意義についてお話を伺った。

各国のレベルアップを感じる女子ラグビーW杯

10月8日にニュージーランドで開幕した女子ラグビーワールドカップ。日本女子代表チーム「サクラフィフティーン」はアウェーでの試合に苦戦していますが、アメリカ選では前半リードするなど、勝つチャンスはありました。

今回のW杯を見ていて感じたのは、ニュージーランドやイングランドといった強豪国が強いのはもちろんですが、日本を含め、その下のレベルのチームも力をつけているということ。今年5月のオーストラリア遠征の際、日本代表が下したフィジー代表は、南アフリカ代表を相手に逆転勝ちしましたよね。それぞれの国が進化を遂げていて、実力差が縮まっているように思います。

ニュージーランド代表「ブラックファーンズ」には7人制の選手もいましたが、彼女たちの活躍には目を見張るものがありました。特にウイングなどバックスのトライをとるポジションでは足の速さが群を抜いていましたね。

7人制は常に走っているといっても過言ではないほど運動量が多いので、15人制よりも速さとスタミナが要求されるんですよ。7人制で磨いた技術は、15人制でも大いに生かせます。実際、7人制がオリンピック種目になる前は、7人制から15人制にステップアップするルートがニュージーランドでは一般的でした。オールブラックスなど歴代のスター選手の中にも7人制でのプレー経験を持つ人が少なくなかったですね。

しかしブラックファーンズも手加減せずにぶつかってくる。
しかしブラックファーンズも手加減せずにぶつかってくる。
ブラックファーンズとのテストマッチでは序盤から猛烈なブラックファーンズのアタッ クを受け、必死で守るサクラフィフティーン。
ブラックファーンズとのテストマッチでは序盤から猛烈なブラックファーンズのアタッ クを受け、必死で守るサクラフィフティーン。
世界トップレベルのチーム相手にトライを決めて喜びを分かち合うサクラフィフティーン。
世界トップレベルのチーム相手にトライを決めて喜びを分かち合うサクラフィフティーン。
それでも強烈なタックルを繰り出す日 本代表選手たち。
それでも強烈なタックルを繰り出す日 本代表選手たち。
イーデンパーク
晴れ間の中にときおり小雨も降るというニュージーランドらしい天気の中、熱気が高まる会場のイーデンパーク。点が入ると炎が噴き上がる装置で観客も大興奮だ。

若いうちに国際経験を積むことが重要

サクラフィフティーンには過去に7人制の高校国際大会「ワールドスクールセブンズ(WSS)」に出場した選手が4名在籍しています。若いうちにWSSのような世界トップレベルの大会に出たり、留学するなどして国際経験を積むのは非常によいことです。

日本国内だけだと似たような体格の選手が多く、自分よりも体が大きな選手と競り合う機会はあまりないでしょう。その点、WSSではスピードは劣るけど体はものすごく大きいとか、小柄で俊敏な選手など、世界中からいろいろなタイプのプレーヤーが集まります。ニュージーランド男子の高校代表クラスともなると、体重110kg超の巨漢でも走れる選手が珍しくない。体格的に不利とされる日本人がそうした大柄でスピードもある選手をタックルでどう倒すかも学べるでしょう。

留学を通してコミュニケーション能力を磨く

技術的な面だけでなく、国際経験を積むことでコミュニケーション能力も鍛えられます。コミュニケーションはラグビーではとても大切。例えばタックルは1対1の勝負のように見えますが、賢い選手やしっかりしたチームはチームメイト同士がうまくコミュニケーションをとり、1人目が飛ばされてもセカンドタックルでサポートするなど、相手を確実にとらえるプレーをしますよ。

アカデミーや学校では何度も反復練習を行って力をつけていきます。長い時間をかけて実力もチームメイトへの信頼も構築していくわけです。とはいえ、上位レベルになれば週末だけ選抜チームに入ったり、数日間だけ特別コーチの指導を受けたりと、慣れない環境の中でパフォーマンスを発揮することが求められます。そんなときこそコミュニケーション能力がものを言いますよね。他者とのコミュニケーションを通して、人間としても成長できると思います。

WSSは子どもたちが楽しみながら成長する機会に

12月17・18日に、今年度のWSSが開催されます。現在は選手のリストアップをしているところ。アジア系に注目していますが、それ以外でもよい選手がいればぜひ選出したい。これから夏に向けてセブンズの大会があちこちで行われるので、それらもチェックして絞り込むつもりです。今のところ、チーム編成は順調ですよ。

僕たちコーチ陣の目的は、アジア系の選手にトップレベルで戦う機会を与えること。とはいえ、試合で負け続けては意味がありません。前大会では準優勝でしたし、今回も上位を狙っていきたい。子どもたちには勝ちながら、楽しみながら成長してほしいと考えています。

選手の選定から合宿を通しての短期間でのチーム作りまで、手を抜かずに力を注ぎたいですね。僕たち大人が目の前の仕事を一つずつしっかりとこなせば、結果はおのずとついてくると信じています。

南島のジョンマグラッシェン高校が同じくトップ4に初進出したのも印象的でした。ラグビー強豪校はマオリやアイランダー系の生徒が集まる北島に多く、この数年、南島との実力差が開いていたんですよ。ここ何年もトップ4の高校はほぼ固定されていたので、新しい顔ぶれが食い込んできたのはよいことです。いろいろな高校にチャンスがあると再認識できる大会になりました。今後はオークランドとノースハーバーの差も縮まっていくかもしれません。

名富朗ヘッドコーチ(写真左)
大阪府出身。6歳からラグビーを始め、ダニーデンのキングスハイスクールにラグビー留学。帰国後は中部大学に進み、卒業後、宗像サニックスブルースに入団した。豊田自動織機シャトルズで通訳を務めた経験も持つ。現在はヘイスティングスの高校でスポーツコーディネーター、ラグビー部の2軍コーチ、日本語教師として働いている。
中央:元ニュージーランドとサモアの7人制代表監督ゴードン・ティッチェン氏。ダイレクター・オブ・ラグビーとして参加。
右:アシスタントコーチのハレ・マキリ氏。

Text: Miko Grooby