NZABが再び挑戦する登竜門的大会 ワールドスクールセブンズ

New Zealand & Japan RUGBY FRONTLINESPORTS

2022年9月号掲載

日本人とアジア人の若い選手に成長と活躍の場を与えることを目的として結成されたNew Zealand Asian Barbarians(NZAB)。今年1月に行われた7人制ラグビー(セブンズ)の国際高校大会「ワールドスクールセブンズ」では、初出場ながら準優勝という快挙を成し遂げた。本誌では前号から引き続き、NZAB の躍進をリポート。第2回目はヘッドコーチ名富朗さんに、トッププロの登竜門ともなっている同大会と今後の抱負について話を伺った。

金メダリストも輩出する
U18の世界最高峰

7人制の高校国際大会「ワールドスクールセブンズ」がスタートしたのは2016年。ニュージーランド・アジアン・バーバリアンズ(以下、NZAB)が初出場した今年1月の大会はコロナの影響もあって規模は小さめでしたが、今年度は現時点で海外からの参加者もあわせて20~40チームが参戦予定です。年々レベルが上がっていて18歳以下の7人制大会では世界最高峰といえるでしょう。男子・女子のカテゴリがあり、日本からも女子チームが2017年、2018年の2回出場しました。

この大会はトッププロの登竜門と位置付けられ、これまでにスーパーラグビーやオールブラックスの名プレーヤーを輩出してきました。例えばスーパーラグビーのフィジアン・ドゥルア所属のメリ・デレナランギ選手も過去にプレーしています。彼は昨年の東京五輪では7人制フィジー代表で活躍し、金メダルを獲得したのが記憶に新しいですね。この大会から生まれるスター選手は少なくないので、NZABの選手たちにとってもよい刺激になると思います。

大会に参戦する意義

ニュージーランドの学校は4学期制で、12月初旬から1月下旬~2月上旬くらいまで夏休みです。その間はワールドスクールセブンズを除くと大会などのイベントがないので、高校ラグビー選手のなかにはニュージーランド人でもだらけちゃう子がいるんですよ。日本人留学生にいたっては夏休み中にプレーできる機会はほとんどなく、自分を律してモチベーションを保つのが難しいでしょう。ワールドスクールセブンズはそういった意味でも参加する意義があります。

前大会終了後、NZABに参加したニュージーランド人選手たちから「こういう機会をくれてありがとう」とお礼の連絡がありました。彼らは実力があるのにほかのチームの選考に漏れた子たちだったので、NZABに入っていなければ大会に出られなかったと感謝していました。準優勝という結果を残せたことも素晴らしかったですね。

特に印象に残っているのはパーマストン・ノースから参加したサモア人選手です。裕福な家庭ではなくオークランドまでの交通費の捻出も難しいというので、ネイピアにある僕の自宅に呼び、そこから一緒に向かいました。オークランドまで行けば宿泊費・食費などはすべてチームがカバーするので彼の負担にならないし、NZABにとっては戦力になるから助かるしで、お互いによかったんですよ。

合宿・大会を通して彼とは1週間ほど一緒に過ごしましたが、別れ際には泣くほど喜んでいました。「こ
んなによくしてくれてありがとう」と言ってくれて、僕も嬉しかったし、感動しましたね。

東京オリンピックにフィジー代表として参戦し、金メダルを勝ち取ったメリ・デレナランギ選手。現在はスーパーラグビーのフィジアン・ドゥルアで活躍。ポジションはフランカー。U20フィジー代表に選出された経験も持つ実力派プレーヤー。
ワールドスクールセブンズ出場時のメリ選手。オリンピック金メダリストも輩出するハイレベルな大会だということを物語る。

大会を通して人間性を学ぶ

僕たちコーチ陣は選手たちのラグビーの力だけではなく、人間性の成長を重視しています。試合でどんなに優れたプレーをしても、フィールドの外で態度が悪ければ許容しないし、そもそもそういう選手は選ばれません。これはNZABだけではなく、ほかのチームも同様です。運営側は若い選手たちにチャンスを与えたい一心で、ほとんどボランティアで大会を開催しています。そうした同じ志を持つ人たちと出会えたのは、僕にとって大きな収穫でした。

前大会では日本人・アジア系の選手たちが高校トップレベルの選手たちとの交流を通してふるまいを学べたのもよかったですね。逆にニュージーランド人選手も異文化を理解することができたでしょう。日本に興味が湧いて「将来、日本でプレーしてみたい」と話す子もいました。

リカバリー中にリラックスする選手たち。合宿を通して距離を縮め、大会に備えていった。「ラグビーを通じて知り合った人とは一生の友達になることがよくある」と名富ヘッドコーチは話す。
夕食のBBQ。寝食を共にしながらコミュニケーションをとることでお互いを理解し合い、チームメイトとしての絆を深めていった。
井上 柊 選手

大会参加者の体験談
井上 柊 選手

この大会だからこそ体験できる
トップレベルの戦いと人間的成長

最初、Asian barbariansの候補者を見た時にスーパーラグビーのU18 に選ばれている人が多くて正直選ばれないと思ってました。でも、名富さんから電話が掛かってきて選ばれたと聞いた時、とても嬉しかったです。

キャンプが始まり、初日にフィットネスをしました。正直とてもきつくて、次の日に筋肉痛になってました。練習以外の時間はプールにみんなで入ってリカバリーをしたり、トランプをしたりしてチームメイトとの仲も深まりました。そして日にちが進み別のチームと試合形式で練習しました。その結果があまり良くなかったのでみんな少しガッカリしていたと思います。大会が始まり初戦、二戦目、三戦目と三連勝しみんな自信が出ていました。
そしてグループステージ最終戦を迎えました。相手はNZ高校セブンズ代表で、みんな体が大きく一人一人のレベルがとても高かったです。結果は負けで2位通過になったけどそこでトライを取れたことはとても自分のなかで自信に繋がりました。2日目、準決勝でフィジーとあたり、延長戦で味方がトライをして勝ち決勝戦でまたNZ高校セブンズ代表とやりました。負けて2位で終わったけどチーム内の雰囲気はとても良かったです。

一緒にやって仲間のコンタクトの強さやパス、判断力のレベルがとても高く驚きました。
この大会に参加したことで、世界レベルの選手達との戦いを肌で感じることができたことが自信にも繋がるし将来的にもかけがえのない体験でした。これを糧に、大学でもラグビーを続けようと思っています。

次大会に向けての抱負

次の大会は12月。それに向けてマネージャーと準備を進めています。前大会での経験を踏まえて改善したいこともいろいろあります。大会日程が2日間から3日間に増える可能性があるので、戦いぬけるよう選手層を厚くするのも課題です。

また、女子チームの結成も目標のひとつです。ほかのチームの多くは男子・女子の両方を持っているのですが、日本人・アジア人の女子選手を探すのは結構大変なんですよ。とはいえ、短期留学生なども含めれば選手は確保できると思うので、まずはチームの知名度を上げ、枠組みを固めることから始めたいですね。セブンズは体重が軽くても戦えるので、日本人に向いていると思うんです。日本人の俊敏さを強みにして注目を集め、選手たちの未来につなげられたらと考えています。

名富朗ヘッドコーチ(写真左)
大阪府出身。6歳からラグビーを始め、ダニーデンのキングスハイスクールにラグビー留学。帰国後は中部大学に進み、卒業後、宗像サニックスブルースに入団した。豊田自動織機シャトルズで通訳を務めた経験も持つ。現在はヘイスティングスの高校でスポーツコーディネーター、ラグビー部の2軍コーチ、日本語教師として働いている。
中央:元ニュージーランドとサモアの7人制代表監督ゴードン・ティッチェン氏。ダイレクター・オブ・ラグビーとして参加。
右:アシスタントコーチのハレ・マキリ氏。
ユニフォームは桜と龍というアジアらしいモチーフのデザイン。名富さんとマネージャーのブレッドがアイディアを出し合った。白を選んだのはスポンサーの名称が目立つようにとの配慮から。ソックスは乳がんをサポートする意味を込めてピンクにした。

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名富朗(なとみ あきら)ヘッドコーチ
【Ph】027-560-1846 
【Email】aki10nato26@gmail.com 
【FB】NZAsianBarbariansRugbySevens

Text: Miko Grooby