結婚前に交わす契約書に関すること

弁護士の独り言 LIFESTYLE

Pre-nuptial Agreement もしくは Contract Out Agreement について

Pre-nuptial Agreementとは結婚前の取り決めの事で、広くは結婚後の双方の義務などの確認を含みます。しかしながらニュージーランドでこの契約が交わされるのはたいていの場合、万一将来離婚になった時の財産分けを事前に確認しておくためです。Contract Out Agreementも同じ意味で使われます。

これを意訳すれば「制定法で定められている内容を排除する契約」と言う事が出来ます。結婚財産についての制定法では結婚後に共有した財産や結婚中に二人で築いた財産は基本的に半分ずつに分けるとなっていますが、結婚前の取り決めがあれば半分ずつでなくてもよいとする条項もあります。

あなたが結婚しようと思うキーウィ男性がまとまった財産を持っている場合、結婚前にこの契約書へ婚約者からサインが求められる事になるかも知れません。おそらくこの男性は事業に成功して既に十分なお金を貯めている、祖父母や両親が亡くなった時に既にまとまった遺産を相続している、もしくは以前に離婚、財産分けの経験がある等が考えられます。

実際的な問題

結婚財産について定めたニュージーランドの法律Property (Relationships) Act 1976では、例えば結婚前に夫が所有していた家であっても、結婚後、一緒に住んで3年以上経った後に離婚、となりますと、基本的には半分ずつの財産として分けるとなっています。したがってこれを避けたいと思う夫は「この家はずっと自分だけのものであって、万一離婚になってもあなたには一切権利はない」という意味を含んだ一節を契約書に盛り込み、サインを求めてくるかもしれません。

弁護士の仕事と言いますか、使命は自分のクライアントにとっての利益を優先させることです。基本的にContract Out Agreementは二者間の合意書ですので、それぞれの弁護士がかかわり、違法でない限りどんなことでも記入することが出来ます。上記で述べた一緒に住む家の権利以外によく出てくる内容は次のようなものです。

結婚後に稼ぐお金も混ぜることなくお互いの稼ぎはそれぞれ個人のもの。すなわち夫が稼いだお金は夫の財産、妻の稼いだお金は妻の財産ということです。夫婦であっても収入を完全に分けるという取り決めは、経済的な面では“普通の夫婦”よりも距離を感じるかもしれません。若いカップルで子供が出来た場合、主婦専業になられる方もいます。上記のルールを当てはめますと夫の収入は夫のものだが、妻は収入がないのでいざ財産分けとなれば「何もない」ということになります。

はっきり言ってちょっとイヤな感じがしませんか?二人は永久に愛を誓い、周りからは「この愛が100年続きますように」と歌ってもらっている時に、夫となる彼は別れた場合に備えて着々と外堀を埋めているといった感じです。若い独身のアジア女性にニュージーランドの法律ではこんなのがあるんだよ、と話すと「うちの母ならそんな人とは結婚するなって言うだろう」と笑っていました。キーウィカップルでも抵抗を感じる人は多いと聞きます。実際、この種のContract Out Agreementの中身をしっかり理解された場合にはサインを拒まれただけではなく、二人の関係を解消されたケースも数件ありました。結構、深刻な契約書と言うことが出来ると考えます。

正式法律文書

この契約書は正式な法律文書なので、一定の形式が定められています。この形式の大きな特徴のひとつは既に述べましたように、それぞれが自分の弁護士をたてなければならない点にあります。そして自分の弁護士から契約書の中味についてしっかりと説明を受け、「十分に内容が分かった上でサインした」と明記されている必要があります。また「契約書の中身をきっちりと説明した」という内容が自分の弁護士によっても宣誓されていなければ正式法律文書とみなされません。これは離婚時になって「そんな事とは知らずにサインした」といった争議を避けるために定められています。

アドバイス - 注意すべき重要点

どの様な契約書についてでも言える事ですが、まずは中味を十分に理解するまでサインしない事です。当たり前だと思われるかも知れませんが、これが意外と難しいのです。なぜならおそらく日本ではあまり知られていない契約書なので事前に対応を考えた事がないからです。結婚前と言う「幸せの絶頂期」に自分たちの離婚について考えること自体が難しいのに、この契約書は将来離婚した時の財産分けについて述べているので、その時の状況を想像しながら自分に不利がないかを考えなければなりません。

何の契約書か分からずに、彼から渡された契約書を持ってこられたクライアントが言います。「私は結婚に際して持ち込んだお金はほとんど無いので、万一別れることなって、何ももらえなくてもいいです。だからそんなに詳しく説明してくれなくてもサインします。私の弁護士費用を彼が払ってくれると言うのであまり時間をかけたくないんです。」
なるほどそうだ!と思われる人もいるかも知れません。しかしながら、『瀬戸の花嫁』のように「愛があるから大丈夫なのよ」※と考えているとしてもいざ別れるとなれば、まず頼りになるのはお金です。その頃にはかわいい子供が二人くらいいるかもしれません。

「普通ならニュージーランドの法律で保証されている金額を確保しておきたいとは、この子供たちの為でも絶対に考えない」とあなたは言えるでしょうか?

そして私は心の中でつぶやくのです。

「あなたが私より彼を信頼していて、彼に言われたから仕方なく私の所へ来て、そして急いでいるのは分かりますが、彼からあなたの財産を守ろうとがんばっているのは私なんですよ。オーイ!」と。

※瀬戸内海を代表するご当地ソング。昭和47年のヒット曲。小柳ルミ子が歌う「瀬戸の花嫁」には、瀬戸内海の小島へ嫁が嫁ぐ様・心情と、新生活への決意が歌われている。その歌詞にあるフレーズ

西村さん
ローズバンク法律事務所
弁護士 西村純一

オークランド大学法学部卒業後、ニュージーランドで初の日本人弁護士となる。
Web: https://www.rosebanklaw.co.nz
Email: contact@rosebanklaw.co.nz
Phone: 09 820 0154

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