JSANZ主催・2023日本語スピーチコンテスト大学生部門 結果発表まとめ

SANZ主催・2023日本語スピーチコンテスト大学生部門 結果発表まとめEDUCATION

報告:二水会役員・三菱商事Auckland支店、清水泰雅

二水会が本イベントを支援する背景

他言語(第2外国語)を話すことは、その国の文化を知り、その国民とのコミュニケーションに欠かせない。また特に、日本語を話す若いニュージーランド人世代が増えることで、将来の日本とニュージーランドの文化・経済交流が活性化することが期待される。 これは我々二水会活動目的と合致する。


コンテスト名称
2023 JSANZ Tertiary Japanese Language Speech Contest

主催
Japanese Studies Aotearoa New Zealand(JSANZ)

後援
在ニュージーランド日本国大使館、在オークランド日本国総領事館、国際交流基金

主要スポンサー
オークランド日本経済懇談会(二水会)

コンテスト参加者所属大学
University of Auckland / Victoria University of Wellington / IPU New Zealand Tertiary Institution / University of Canterbury / University of Otago

コンテスト採点方式(審査期間:2023年9月)
スピーチのビデオを4名の審査員(JSANZ関係者、二水会会員3名)がオンライン上で視聴して採点。

主な評価・採点内容
プレゼンテーション力、マナー、記憶力(カンペを見ない)、スピーチ内容 メッセージ力、語学・語彙力、正確さ、流暢さ、コミュニケーション力など

コンテスト結果発表・名前・所属大学・「スピーチタイトル」
優勝 Ms. Liza (Sua) Yoo・University of Auckland・「人との繋がりの大切さ」
2位 Ms. Sang Lee (Sophie) Yun・University of Canterbury・「繋がりの大切さ」
3位 Mr. Raz Tripp・University of Canterbury・「私の志」

二水会が本イベントの支援を開始した経緯、現在と将来について

二水会(当会)が本イベントの主要スポンサーとして支援を開始したのは2018年だった。
当会役員である筆者がJSANZ関係者と、あるイベントで繋がり、当地の日本語教育の現状と将来について会話をさせて頂いてから、JSANZ・当会の関係が始まった。当時から当地大学での専攻科目で人気があったのは就職に「有利」とされる STEM(科学、技術、工学、数学)だった。しかし、あえて言語の中でも当地の学生にはハードルが高い日本語を専攻している学生は漠然と日本語を勉強しているというよりは、ある一定のはっきりとした理由 をもって学んでいる。それは日本のメイン・サブカルチャーや、日本そのものが好きという高いモーチベーションが根底にあることが分かった。

これは「LIKE」ではなく、「LOVE」そのものだ。

左から:Sophieさん、松居総領事、Lizaさん
左から:Sophieさん、松居総領事、Lizaさん

当会はこのような「I LOVE JAPAN」のニュージーランド人学生の存在を知り、当会の活動目的とも合致することから、支援を開始した経緯がある。毎年開催される本イベントで、参加者は日本語の習得を通じて得られた気づき、違う目線で多面的に物事をみられる考え方や、自ら多様性を認められ る人格形成になることに役立てられており、単なる語学の枠組みを超え、実体験を通して、よい人生経験をされていることが分かる。 例えば、2023年の本イベントの上位3名の入賞者のスピーチはコロナ禍で社会が変わってしまった(弱者を無視)ことを憂い、そういったひとを見過ごさないことが大切と強調(1位、Lizaさん)したもの、「心で見えないと、ものごとはよく見えない」と絵本からのフレーズを引用し、 4つの感情「共感・理解・受容・愛」をもつことが重要(2位、Sophieさん)とするもの、またご自身の「志」である地球環境汚染の解決へのアプローチ(3位、Razさん)などだ。これらは社会的な背景を題材にし、それと真正面に向き合い、自分がどうありたいか(どう生きるか)といった自分に向き合う姿勢を表すスピーチであり、 審査員全員をうならせたのは印象的だった。本号に上位3位までの入賞者のスピーチスクリプトを掲載しているので、読者の皆さんもぜひご高覧頂きたい。

入賞者以外のスピーチは学校の先生との出会いで、自信をつけていったものや、女性が自分をリスペクトし、大切にすることで、自分らしい人生を開けるとするもの、またアルツハイマー患者が勤務するカフェでのアルバイト経験から、政府が精神疾患患者への支援を増やす重要性など、ご自身や社会的な課題を取り上げたものもあった。

このように、日本語の習得を通して、ものごとを、また自分を複眼的にみるくせをつけることで、人間としての成長を遂げることができることも、言語学習の真の目的とも理解できる。

また昨今、特に米国の大学を中心に「S.T.E.A.M」というアプローチが取られている。これは前述の STEMにART思考を取り入れたものだ。STEMは全て正解がある理系の学問だ。一方、ARTは問う学問。日本語学科は大学の「Faculty of Art(文学部)」に属している。ART思考のエッセンスが入った日本語の勉強を通し、技術系のSTEMと、問題を見つけ方向性を見出すためのARTの融合(S.T.E.A.M)で、学生さんたちは新しい価値を創出する力を培うことができると思う。

近年のVUCAの時代は問題解決よりも、問題(本質)を見つけ、問う能力を持った人材が必要とされている。

言語はコミュニケーションのツールに過ぎないが、それを「自分の言葉」でどう伝えるのか、伝えた言葉が相手の心に刺さっているのか(届いているのか)、相手との温度感を感じながら相手に自分の感動を伝承し、相手を感動させられるような日本語を習得できるように、ニュージーランド人学生さんたちに心からエールを送りたい。

これら若いニュージーランド人学生さんたちは日本・ニュージーランドの将来を担っていく両国の「宝」だ。当会としても、本イベントの支援をできるだけ長期に継続できれば と考えている。

2023年11月3日の表彰式@Auckland大学で、二水会ロゴ・バナーをバックに記念撮影
左から二水会会員の小西さん(JTB NZ)、山下さん(Partners Life)、Sophieさん、Lizaさん、筆者

2024年1月号掲載