農業高校で動物科学を学んだNaoさんは、ニュージーランドの畜産業や酪農に惹かれて移住した。牧場やカフェでの接客の仕事をしながら、地域の環境保全ボランティア活動にも精を出し、満を持して環境省でのレンジャーの仕事をゲット!今日も誇りと責任を胸に、森や山の中でモニタリング調査や動植物の管理業務に取り組んでいる。そんなNaoさんが語る、ニュージーランド特有の仕事探しの秘訣とは?レンジャーという仕事に必要な知識や、大自然と共に生きる文化が根付くニュージーランド生活の魅力について、お話を伺った。
Q. ニュージーランドへ来たきっかけは何ですか?
ニュージーランドに来たのは、2020年のコロナ禍の真っ只中でした。
私は農業高校の動物科学科に通っていて、もともと畜産業や動物に関わる仕事に興味を持っていました。ある日、教科書をめくっていたときに目に入ったのが、広大な牧草地で放牧されているニュージーランドの牛たちの写真でした。日本の畜産業や酪農との違いに惹かれ、「実際にこの国を見てみたい」と強く思いました。
高校卒業後、牧場やリゾートなどでバイトをしながら資金を貯め、ニュージーランドへ渡航しました。
Q. レンジャーの仕事内容について教えてください。
私が所属しているのは、DOC(Department of Conservation)の中でも「Biodiversity Ranger」と呼ばれるチームです。直訳すると「生物多様性レンジャー」で、生物多様性や自然環境を守るために、外来植物の管理(Weed Control)、害獣管理(Pest Control)、モニタリング調査などを行っています。
私が働いているエリアでは、海に浮かぶ島々、山岳地帯、砂州(Sand Spit)、海岸線、河川など、多様な生態系を管理しています。そのため働く場所は週ごと、時には日ごとに変わります。山奥など簡単にアクセスできない場所では、ヘリコプターやボート、四輪駆動車を使って現地へ向かい、山小屋やテントで生活しながら最長1週間ほど仕事をすることもあります。
通常は朝8時に始業し、午後4時30分に終業します。しかし自然が相手の仕事なので、天候や潮の満ち引きによって予定が変更になることは日常茶飯事です。
これまでで特に印象に残っている仕事は、ニュージーランド固有の巨大カタツムリ「パウエリファンタ(Powelliphanta)」のモニタリング調査です。2日間にわたり山の中で調査を行い、1日約8時間、地面を這うようにしてカタツムリを探しました。小さな個体から巨大な個体、卵や殻まで見つけ出して記録していきます。
一見すると地味な仕事に思えるかもしれません。しかし、2日間じっくりと地面に向き合い、普段は見過ごしてしまうような小さな生き物たちの世界を観察する経験は、とても興味深く貴重なものでした。

Q. ニュージーランドでの仕事はどのように探しましたか?
私は最初からレンジャーとして働いていたわけではありません。ニュージーランドへ来てから最初に働いたのは牧場で、その後はパブやカフェなどで接客をしていました。
接客業を通して地域コミュニティとのつながりを作り、多くの人に顔を覚えてもらうよう心掛けていました。そうすることで、求人サイトには載っていない情報やチャンスを得ることもありました。
環境保全にも興味があったため、地域の保全ボランティア団体にも積極的に参加しました。トラップの設置や植樹活動に参加したり、狩猟を通して自然との関わりを深めたりしてきました。
結果、こうした地道な活動が、現在のレンジャーの仕事へとつながりました。
どの仕事にも共通して言えるのは、ニュージーランドでは「人とのつながり」がとても重要だということです。特にDOCでは、経歴やスキルももちろん大切ですが、山奥や厳しい環境の中でチームとして働くため、人柄や協調性が非常に重視されていると感じます。
そして何より大切なのは、一度断られたからといって諦めないことです。最初に牧場の仕事を探したとき、私はほとんど英語が話せませんでした。そのため100件以上の牧場へ連絡を取りました。返事が返ってきたのは20件ほどで、実際に仕事のオファーをもらえたのは3件でした。諦めずに行動し続けたことが、今につながっていると思います。
Q.ニュージーランドでレンジャーとして働くために必要な資格、あった方がいい経験などがあれば教えてください。
レンジャーの仕事をする上でまず重要なのは、基本的なアウトドアスキルや体力です。
また、レンジャーとして働くためのスキルを身に着けるため、NMIT(Nelson Marlborough Institute of Technology)の「Trainee Ranger Programme」という1年間のレベル4コースで学び、資格を得ました。
そのほかにも、Friends of Floraという高山生態系の保全団体でトラッピングやモニタリングのボランティアに参加したり、野生ペンギンの保護活動や植樹活動などにも積極的に関わってきました。
ニュージーランドの保全活動は、多くのボランティアによって支えられています。そのため、ボランティア活動を通じて経験を積み、人とのつながりを作ることはとても重要だと思います。
英語については、ニュージーランドへ来た当初はほとんど話せませんでしたし、今でも学び続けています。ただ、レンジャーとして働く上で必要な英語は、必ずしもアカデミックな英語力ではないと思います。もちろん基本的なコミュニケーション能力は必要ですが、それ以上に大切なのは、無線でのやり取りや安全に関する指示を正しく理解することです。仕事内容や天候は日々変化するため、状況に応じて柔軟に対応し、相手の言っていることを正確に理解する力が求められます。

Q. レンジャーとして働くうえで、日本人であることのメリットを感じることはありますか?
レンジャーとして働く日本人はまだ少ないため、顔や名前を覚えてもらいやすいと感じることはあります。
相手を思いやり、周囲との調和を大切にする日本の文化は強みになるかもしれません。大自然の中で働く仕事ではチームワークが欠かせませんから。
Q. ニュージーランド生活ならではの楽しさや魅力について教えてください。
私が感じる一番の魅力は、人とのつながりを大切にする文化です。
また、仕事が「単なる労働」ではなく、「人生の一部」として捉えられているように感じます。仕事をしながらも人生を楽しみ、自分らしく生きることを大切にしている人が多いです。
そして、ニュージーランドには、一人ひとりの自由や意思を尊重する文化があります。
私はニュージーランドに来る前、周りが大学進学や就職活動に進む一方で、自分が何をしたいのか、自分がどういう人間なのかも分からず、人生を見失っていました。日本は大好きですが、競争社会の中での周囲からのプレッシャーや、他者を尊重する文化の中で、自分自身を見つけ出すことはとても難しいと感じていたのです。
ニュージーランドに来てから、「Naoはどう思う?」と常に聞かれることに驚いたのを覚えています。自分が何をしたいのか、自分が何を感じているのか。そういった小さな問いを日々投げかけられることが、少しずつ本当の自分を見つけていくことにつながっていったと思います。自分の夢に向かって進むこと、自分の感情や意志を大切にすること、人生や心の豊かさを優先すること。そうした価値観が、自分にとって大きな支えになりました。
職場でも、お互いに意見を出し合いながら、より良い職場環境やチームを作っていく姿勢はとても魅力的だと感じます。
それから、大自然と共に生きる文化が今も残っていることが素晴らしいです。ニュージーランドには、環境保護に取り組む人、狩人、自給自足に近い暮らしをしている人など、自然の中で暮らすコミュニティが多くあります。私は自然と共に生きる中で、自然の恵みを人が分けてもらっていることや、私たちの日々の食事に使われている命の重さなど、大切なことをたくさん学びました。街で生活してると忘れてしまいがちですが、ニュージーランドでは大自然がすぐそばにあり、それが日常の中に溶け込んでいるのです。

Q.また反対に大変なことや難しいと感じる部分はありますか?
やはり英語でのコミュニケーションは今でも難しいと感じることがあります。少しの聞き間違いやニュアンスの違いが仕事上のミスにつながる可能性もありますし、文化の違いの中で孤独や疎外感を感じることもあります。
また、仕事探しでは現地のニュージーランド人と競争しなければなりません。彼らは幼い頃から自然の中で育ち、豊富な知識や経験を持っています。その差を感じることは今でもあります。
しかし、その差があるからこそ学び続ける意欲にもつながっていますし、日本人として私としての違いを認識し、強みに生かすことにもつながっていると思います。
Q. ニュージーランドと日本での働き方の違いなどはありますか?
一言で表現するなら、ニュージーランドの働き方はもう少し「チル」だと思います。
予定が柔軟に変わることも多く、朝は仕事の話だけでなく雑談を楽しむ時間も大切にされています。良い人間関係を築くことも仕事の一部として考えられているように感じます。
私は日本での社会人経験が少ないため単純な比較はできませんが、仕事以外の時間を大切にする文化は強く感じます。家族との時間や趣味の時間を大切にし、仕事の外にも自分のコミュニティを持っている人が多い印象です。

Q. オフの日や仕事終わりの過ごし方はどのような感じですか?

料理が好きなので、家で料理をすることが多いです。
また、狩猟に出かけたり、ハイキングをしたり、ゆっくり体を休めたりもします。音楽イベントへ行くことも好きですし、自然や日々の暮らしの中で感じたことを文章に書く時間も大切にしています。
また仕事の他に、何個かのボランティア団体にも所属しているので、自然保護活動のボランティアに参加したりしています。
Q. 最後に、これからニュージーランドでレンジャーとして働きたいと考えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
ニュージーランドの自然は、本当に特別な場所だと思います。世界でも有数のユニークな生態系と生物多様性を持ち、人類が足を踏み入れる以前から続く古代の森が今も残っています。
仕事をしていると、思わず息をのむような景色に出会ったり、貴重な野生動物を目の前にしながら作業をしたりすることがあります。そんな場所を守る仕事ができること、そして未来へつなぐための一端を担えることを、私は今でも光栄に感じています。
もちろん大変なこともあります。しかしニュージーランドは、自分の情熱を持って挑戦する人を応援してくれる国です。
自分の好きなことや信念を大切にしてください。そして、その情熱を信じて一歩を踏み出してみてください。


環境省レンジャー/【Tasman】
Naoさん
愛知県名古屋市出身、26歳。好きなものは自然、コーヒー、動物、お酒、食べ物。2020年にニュージーランドに移住。牧場で三年間働いた後、小さなバンでニュージーランド一周を旅したのち、ニュージーランドの大自然に恋に落ち、狩りを初め、自然を知っていくうちに守っていかなくてはいけないことに気付き、環境保全活動を始める。
人、自然、大地、食とのつながりを大切にしています。自然やニュージーランド生活の中で感じたことを文章にすることも好きなので、興味があればぜひ私のnoteも読んでみてください:)
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取材・編集 GekkanNZ
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