シクラメンを見て、何を思う?

園芸家が見つけた季節のたより 花と野菜と庭とLIFESTYLE

2022年6月号掲載

物や人の印象ってどうやって決まる? 「人は見た目が9割」なんて本があったけど、花の場合、私たちが勝手につけた名前が、印象づけに大きく影響していると思わずにいられない。例えばシザンサス。別名「貧乏人の蘭」と呼ばれる。なぜもっとポジティブな名前をつけられなかったのか? 蘭のような花だけど、もっと安価に手に入るってことだったら「蘭の如し」とかね。ダメ?

この季節、店頭に並んでいるシクラメンも、案外かわいそうな名で呼ばれた時代があったことはご存知だろうか? 自生地の地中海では豚がこの球根を食べることから「Sow Bread(豚のパン)」と呼ばれていた。初めて日本にこのシクラメンが導入された時、当時の翻訳者は分かりやすい名前にと「豚の饅頭」と和訳をつけた。

シクラメンの茎をまっすぐに

シクラメン
紫色のシックなシクラメン。花も美しいが、葉の模様の入り方に個性があるのも魅力

ああ、なんてセンスがないのだろう。その後、有名な植物学者、牧野富太郎氏がかがり火のようだと「篝火花(かがりびばな)」という情緒ある名前を命名した。ニュージーランドをはじめとする英語圏では、植物名は学名そしてコモンネーム(流通名)で呼ばれる。ここでいう豚の饅頭はいわゆる流通名。シクラメンは学名からきた名前である。饅頭とつけられた由縁でもあるその球根、もし気になった人は葉っぱをめくって見てほしい。この球根は深植え厳禁なので、球根が必ず少し見えるように植えられている。確かに丸い饅頭のよう…。何はともあれ、冬の寂しいお庭や窓辺におすすめの冬の花シクラメン。この季節、その花を見るたびに、やっぱり饅頭はないよねー、って一人つぶやいている。

Naomiさんとネコ先生
Naomi Goto Garrett
五嶋ガレット直美

日本でガーデンデザイナー、イラストレーターとして活動。
園芸雑誌や新聞へのコラム執筆、デザイナー向け講演も行う。
現在クライストチャーチ近郊に在住。

【ブログ】naomigarden8.com