ニュージーランドで子育てするうえで戸惑うことのひとつが教育制度。
日本とはシステムが異なり、将来を見据えたさまざまな体験学習プログラムも存在する。
就学前から初等、中等、高等まで、この国の教育についてご紹介しよう。
IB(International Baccalaureate/国際バカロレア)
IBとは?
1968年にスイスのインターナショナルスクールでスタートした教育プログラム。ジュネーブに本部を持つ国際バカロレア機構が提供し、ディプロマ・プログラムの所定カリキュラムを2年間履修して最終試験に合格すると、国際的に通用する大学入学資格(国際バカロレア資格)が与えられる。
IBが目的とするのは高い学力を有するだけでなく、よりよい社会をつくるグローバルな人材を育成すること。IBの学習者像は以下のように定められている。
①探求する人、②知識のある人、③考える人、④コミュニケーションができる人、⑤信念を持つ人、⑥心を開く人、⑦思いやりのある人、⑧挑戦する人、⑨バランスの取れた人、⑩振り返りができる人
IBをカリキュラムに取り入れている学校はIB World Schoolと呼ばれ、世界153カ国に5000校以上が存在する。ニュージーランドには2025年3月現在18校あり、そのうち11校でディプロマ・プログラムを提供。私立校だけではなく、オークランドのTakapuna Grammar SchoolやRangitoto Collegeのように公立校もある。
IBディプロマ・プログラムの特徴
IBディプロマ・プログラムのカリキュラムはYear 12、13の2年間。高等レベル(HL)3科目、標準レベル(SL)3科目の計6科目を学ぶ。 科目はグループ1(語学と文学)、2(語学の習得)、3(個人と社会)、4(理科)、5(数学)、6(芸術)に分けられ、生徒はグループ1~5からそれぞれ1科目、さらにグループ6またはグループ1~5から1科目を選択しなければならない。
ほかにコア科目として知の理論(TOK)、課題論文(EE)、創造性・活動・奉仕(CAS)の履修も必要。TOK(Theory of Knowledge)では最低100時間の学習で批判的思考や論理的思考を身に着け、EE(Extended Essay)では履修している科目の中から1科目を選んで個人研究を行い、英語で4000文字の論文にまとめて提出、CAS(Creativity, Activity, Service)は芸術での創造性・健康的なアクティビティ・社会貢献や交流活動による奉仕の3つを課外活動として行う。
これらの科目を履修して最終試験で一定以上の成績を収めると国際バカロレア資格を得られ、ニュージーランドを含む世界100カ国2万以上の大学への入学資格となる。
IBのスペシャリストにインタビュー!
IB Diplomaとはどんなもの?
- QIB DiplomaとNCEAの違いは何ですか?
- A
IB Diplomaは2年間のカリキュラムです。2年間しっかりとこの学習プログラムに向き合って努力する必要があり ます。グローバル人材を育てるため、語学教育に力を入れていることも特徴です。
- QIB Diplomaに向いているのはどのような生徒ですか?
- A
自分でしっかりと考え、モチベーションを持って己を律することができる生徒です。幅広い分野を学び、コミュニティサービスに興味がある生徒も向いています。
- QIB Diploma取得のコツは?
- A
学期末の試験に重きを置くのではなく、毎日コツコツと積み重ねていくことです。IB Diplomaでは2年目の最後にExternal(外部評価による最終試験)が行われます。
- Q課外活動にはどのようなものがありますか?
- A
さまざまなコミュティサービスがあり、生徒自身が興味のあるものを選べます。例えば植樹やビーチクリーンのボランティアなど。下級生にチューターとして自分が得意な教科の学習サポートをすることも課外活動に含まれます。

ペトラ・ケント先生
2007年よりTakapuna Grammar Schoolで教鞭をとり、ESOLヘッドを経て、2020年より語学教職部長を務める。長野県で3年暮らした経験があり、日本語が堪能。
ゲートウェイ(Gateway)
ニュージーランドの高校にはゲートウェイという職業体験プログラムがある。これは高校修了後(Year 12または13)、大学に行かずに就職したい生徒のためのコース。Year 12以上から選択でき、授業の代わりにそれぞれの生徒が興味のある分野の職場を訪れてさまざまなことを学ぶというもの。例えばホスピタリティの分野を希望する生徒はカフェやレストランで、モノづくりが好きな生徒は大工さんのもとで研修するなど、いろいろな職業体験ができる。このコースを取るとUnit Standardの単位も取れる。これはUEではないが、就職するためには認められる単位だ。
高校教師にインタビュー!
ニュージーランドの高校の教育事情とは?
- Q各科目で取得できる単位は学校ごとに違いますか?
- A
各科目の単位はNZQAが定めていますが、学校によっては全てをオファーしないところもあり、教えている内容や生徒たちの興味を踏まえてテストを選択しています。
例えば日本語クラスでも会話のテストをする学校としない学校、Externalをする学校としない学校があります。私が勤務するAlbany Senior High School(ASHS)では日本語のレベル2と3ではすべてのテストをしていますが、レベル1ではExternalは行っていません。もし生徒がもっと単位を取りたいと希望すれば、その生徒を個別に登録してExternalをオファーすることもできます。また、時間割の関係でクラスを取ることができなくても、テストだけを登録し、そこから単位を取得することもできます。日本人生徒なら日本語のクラスには参加せず、その時間はほかの科目を取り、日本語のテストだけを受けることも可能です。
- Q英語と数学は必須科目ですか?
- A
ニュージーランドのすべての学校で英語と数学が必須というわけではありません。ASHSでは、もしLiteracy & Numeracyを事前にパスしていなければ、英語と数学が必修になります。
ただし、知識を広げるためにYear 9で語学を必修としている学校は多いです。また、学校によっては日本と同様に主要5科目をYear 10まで必修とするところもあります。
- QUE取得の準備はいつから始めればよいですか?
- A
ほとんどの場合、大学に行くための本格的な準備はYear 12から始めれば大丈夫だと思います。ただし、できればYear 11から大学を見据えた科目の選択をするほうがよいでしょう。教科によっては、Year 12からいきなり新しい科目を学ぶのは難しいからです。
医療系やエンジニアなど、大学のコースによっては決められた科目を取っておかなければならない場合もあります。 さらにランクスコアというNCEAの単位とは別の点数の換算をし、その点数を取っておかなければならない大学のコースもあります。早い段階でCareer Advisor (進路指導) の先生に相談するのをおすすめします。
- Qニュージーランドの高校で注目したい教育システムは?
- A
多国籍国家で近年は移民もさらに増えているため、各学校に外国人のための英語(EL)コースが設けられ、サポートも充実しています。高校のELコースはほかの語学学校よりNCEAの単位を取ることを重視しているのが特徴です。この国で生活していくにはどうしても英語力が必要で、ニュージーランド人と同じレベルを求められますから、英語をしっかり身につけることは重要です。
また、学校に行きながらTe Kuraという通信教育で単位を取ることもできます。例えば、学校で日本語や中国語のクラスはないけれど、Te Kuraという時間を設けてあり、そのクラスで日本語や中国語をオンラインで学び、単位を取ることができます。

ファーニスひとみ先生
2001年よりニュージーランド在住。
ニュージーランドの高校の教員免許を取得し、日本語教員歴20年以上。
現在、Albany Senior High Schoolで日本語教師をしている。
高等教育(Teritary Education)
高等教育の概要
高校卒業後、さらなる学力や技術を身につけるために進む教育機関。国内にある8つの大学のほか、ポリテクニックや技術校(Institute of Technology)などの専門学校、マオリ向けの高等教育施設ワナンガ(Te Wānanga o Aotearoa)も含まれる。これらの大学、専門学校(一部は私立もあり)、ワナンガは公的資金によって運営されている。
高等教育ではサーティフィケート(Certificate/修了証書/レベル1~4)からディプロマ(Diploma/準学士号/レベル6~5)、学士号(Bachelor’s Degree/レベル7)、優等学士号(Bachelor Honors Degree/レベル8)、修士号(Master’s Degree/レベル9)、博士号(Doctoral Degree/レベル10)まで段階別に分かれ、最高レベル10の資格を取得できる。
ニュージーランドの大学
ニュージーランドにある大学は全て国立で、オークランド大学、オークランド工科大学、ワイカト大学、マッセイ大学、ビクトリア大学ウェリントン校、カンタベリー大学、オタゴ大学、リンカーン大学の8校。このうちリンカーン大学は農業に特化し、そのほかは総合大学。
大学のレベルは総じて高く、8校すべてが世界のトップ3%(600大学)にランクインしている。最もハイレベルなのはオークランド大学で、2025年度のQR世界大学ランキングでは65位(東京大学は32位)につけている。
大学の修学年限は学部や課程によって異なるが、文系の場合、フルタイム3年で学士号を習得できる学科が多い。
専門学校
職業に直結した専門分野を学べる学校。ビジネス、会計、エンジニアリング、アート、コンピュータ、看護、スポーツトレーニングなどあらゆる分野を網羅し、学習期間も数週間から4~5年まで、資格もCertificate(修了証)からDiploma(準学士)、Bachelor’s Degree(学士)など幅広く対応している。例えばオークランドにある国内最大のポリテクニックのUnitecでは107のコースを提供。レベル9のコースもある。
