ニュージーランドにも労災認定などの仕組みはありますか?

ニュージーランドの労災認定 HSWA法BUSINESS
「困ったときの法律駆け込み寺」日本とは勝手が違い、戸惑うことも多いニュージーランドの法律。現役弁護士がお答えします。

2022年10月号掲載

Q. ニュージーランドで製造業や倉庫で働くことを検討しています。日本では職場での事故やケガには労災認定などの仕組みがあることは知っていますが、ニュージーランドには同じような仕組みがあるのでしょうか。

2016年4月4日に職場の健康および安全に関する法律(Health and Safety at Work Act 2015:HSWA法)の施行から6年が経過しました。HSWA法は以前のWork Safe法に代わって、ニュージーランド国内の職場環境における健康維持や安全管理を向上させる目的で制定されました。

旧法からの変更点として、法人に対する最大罰金刑の大幅引き上げ(50万ドル→300万ドル)、また法人の監督責任者に対する個人罰(最大禁固5年、罰金60万ドル)が導入され、業務を行う個人・法人への法的な安全責任が厳しくなりました。

施行後、同法上での判決ではこれまで法人のみが刑罰の対象とされておりましたが、2021年10月にはじめて個人責任にまでおよぶ判決が出ました。プレスマシーンを取り扱う企業の従業員が操作を誤った結果、右手の指を2本失う事故が起こりました。これにより、企業側に12万ドルの罰金刑および被害者への3万ドルの賠償金、そして企業の取締役個人に対して3.5万ドルの罰金刑が科せられる判決となりました。安全監督当局(Work Safe NZ)の捜査によると、プレスマシーンに適切なガードが無く、緊急停止ボタンもついていなかった、さらにこのプレスマシーンには以前にも同様の問題が発生していたが、それを社内でリスクとして共有していなかった。そして、従業員への書面での研修記録も見当たらなかった。加えて、この企業には過去に従業員が怪我をしたことによる過去二度の有罪歴があり、安全監督当局により職場の安全性について3つの是正勧告がまさに出されていたところでした。

安全監督当局は、上記の度重なる職場への安全の配慮が見直されてこなかったことを重く見て、法人だけではなく取締役個人へも起訴し、裁判で初めて認められた判例となりました。

製造、工場、倉庫などで勤務されている方は、客観的に周りを見ると潜在的なリスクが沢山ある事に気が付かれるはずです。そして、特に雇用主の方は、それらのリスクが認識、共有されているか、業務にかかわる全員が適切な研修を受けているか、それらが書類として保管され、マニュアル化されているか、などを今一度、ご確認することをお勧めいたします。

Junichi Nishimura
弁護士
Junichi Nishimura
西村純一

ローズバンク法律事務所代表弁護士。オークランド大学法学部を卒業し、ニュージーランドで初の日本人弁護士となる。

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