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併記や言い換えが進む
テ・パパ、オランガ・タマリキ、ワカ・コタヒ、カインガ・オラ、テ・ファツ・オラ、テュランガ…以前からマオリの生活文化や地名に多用されていたマオリ語が、近年は公的機関や施設の名称に優先的に使われるようになった。マオリ語で「宝箱」を意味するテ・パパは、国立博物館の呼称として1998年の開館以来、広く一般に親しまれている。オランガ・タマリキは、2017年から児童保護省の呼称だ。交通省がワカ・コタヒになり、住宅局がカインガ・オラになったのは共に2019年。DHB︵地方保健局︶の統合再編によって2022年に発足したのがテ・ファツ・オラだ。テュランガは2018年に開館したクライストチャーチ中央図書館で、当地のマオリ「ナイタフ」の祖先パイキアが住んだとされる北島の地名に由来する。これが正式名であるため英語名の併記はない。
政府が進めるマオリ語
公共機関の呼称をマオリ語にする動きが顕著になったのは、2019年に新たなマオリ語振興法が制定され、政府が「マオリ語再生への支援戦略」を決定したことによる。これによって公的機関の名称が、①英語/②マオリ語の併記から①マオリ語/②英語の順番が増えた。同様に公立学校においてもマオリ語の名称が前面に出るようになった。「このまま何もしなければ、マオリ語は2050年頃に消滅する」との研究報告が出されたのが2010年。マオリ語の振興策が講じられたことで、マオリ語が話せる人の比率は徐々に上昇しており、15歳以上の国民の6%、マオリでは30%がマオリ語を解する。現政権は、2040年までにマオリ語話者を100万人にするという野心的な目標を掲げて、支援を強化している。
その賛否は選挙の争点に
政府はマオリ語振興の一環として道路標識をマオリ語と英語の併記にすることを提案した。日本の道路標識のように2言語での表記は珍しくはない。しかし、ひと目で理解できることが重視される道路標識に、大多数の国民や来訪者が理解できない言葉を先に表記することについて賛否が別れた。さらにDOC(環境保護局)は、マオリ語が堪能なスタッフに対して来年から年額3500ドルのボーナスを支給すると発表した。政府は2025年までにマオリ語を学校の主要教科にする方針だ。マオリ語の振興方法については賛否が分かれており、総選挙の争点の一つである。
Text:Kazzy Matsuzaki
2023年8月号掲載