インタビュー:執筆家/森の生活者 四角大輔さん

インタビュー:執筆家/森の生活者 四角大輔さんLIFESTYLE

2022年9月号掲載

手放したから、出会えた。

最果ての森から送る、働き方、
そして生き方のヒント

ニュージーランドの山々に囲まれた森の湖畔に住む四角大輔さん。あるとき、日本で打ち立てた揺るぎないキャリアを手放し、驚く周囲をよそにこの地へ移ってこられたそう。そこで実際に生活することで見えてきた、人間として心に誠実に生きながらも自分の可能性を最大限に引き出す働き方、生き方とは? お話を伺った。

理想の暮らしを求めてNZへ

原生林に囲まれた美しい湖畔に自宅を構え、自給自足ベースの生活を実践する四角大輔さん。日本では大手レコード会社で働き、10回ものミリオンヒットを記録したスーパープロデューサーだ。仕事の絶頂期を迎えた39歳の時、そんな輝かしいキャリアをリセットしてニュージーランドへ移住。当時は周囲の人たちから相当“変人”扱いされたという。しかし、自然の近くで暮らしたいと考えていた四角さんにとっては、心に従った最良の選択だった。

「僕は大阪の田舎で育った野生児です。幼少時から自然の中で遊ぶのが大好きでしたが、家の近くの里山や池、田畑が開発されてどんどん住宅地となり、高校に進学する頃には町の風景が一変してしまいました」

 子どもながらに自然が急ピッチで破壊されている様子を肌で感じ、環境問題に関心を抱くようになった四角さん。大学時代、ニュージーランドに留学した友人から湖の写真付きで手紙が送られてきたのをきっかけに、この国に興味を持つようになったとか。

「釣りと登山が趣味なので自然豊かなニュージーランドに憧れました。それ以降はニュージーランド関連の書籍や雑誌などを片っ端からチェックし、妄想を膨らませていましたね。そして1999年に家族旅行でようやくこの国を訪れ、“ここだ!”と衝撃を受けたんです」

以来、15 回ほど視察に訪れてさらに惚れこみ、移住の決意を固めた。

東京で懸命に働いたのも、ニュージーランドの湖畔に家を購入するという目標があったからこそ。「理想の暮らしがここなら叶う」──そんな確信があったという。

「ニュージーランドは環境負荷の少ないエコライフをおくるのに最も適した国のひとつです。再生可能エネルギーは80%を超え、オーガニックやフェアトレードの商品も日本より安く、容易に手に入ります。エコ意識の高い人が多く、リサイクルが当たり前に行われているのが素晴らしいと感じました」 

最果ての森から送る、働き方、そして生き方のヒント。四角大輔さん

環境負荷を減らす生活習慣

四角さん宅の目の前に広がるのは、1年中大きなニジマスが釣れる豊潤な湖。湧水から創り出されており、汲み上げてフィルターを通すだけで飲用に使えるほど澄んでいる。裏庭のガーデンで野菜やハーブを育て、足りない食材があれば週末に開催されるファーマーズマーケットに出かけて有機農家から直に購入。そうしたオーガニックライフの背景には豊かな自然が不可欠で、地球環境の維持が大前提だ。気候変動は近年、世界的な問題となっており、多くの人々が早急にアクションを起こす必要に迫られている。環境保護というと難しい印象があるが、「日々のちょっとした工夫で環境負荷は減らせる」と四角さんは話す。

「一例としてペットボトルの水を買う代わりに蛇口直結型やポット型の浄水器を使うことをおすすめします。そのほうがミネラルウォーターよりもおいしくて健康的だし、長期的に考えればコスパもよい。僕は日本にいる時も常にキッチン用の浄水フィルターと、フィルター付きボトルを持ち歩いています」

使い捨てプラスチックの使用を極力控えるのはいつでも誰にでもできる環境保護活動だ。プラスチックはリサイクル可能だから問題ないと思われるかもしれないが、石油由来なため作る過程でかなり環境負荷がかかるうえ、実際のリサイクル率はわずか9%という報告もある。

「僕はプロデューサー時代にCDを約2000万枚も売りました。ビジネスとしては褒められるけど、CDは環境負荷が非常に高い。自然が大好きといいながら自然破壊に加担してしまったという罪悪感があります。僕たちは誰もが環境破壊の加害者になり得ると自覚することが必要ではないでしょうか」

スローダウンして足るを知る

ニュージーランドの自然とエコライフを愛して移住した四角さんだが、完璧な場所はどこにもないように、この国での生活もいいところだけではない。例えばどの大陸からも遠く離れていることから物資が限られ、何かと不便な場面に遭遇しがちな点は、日本人からすると不満に感じることもあるだろう。

「ニュージーランドは日本に比べると圧倒的に物が少なくて不便です。物事が時間通りに進まない、注文したものがなかなか届かないなどは日常茶飯事。仕事に対してもおおらかな姿勢の人が多いですが、それでもこの国の経済は回っていますよね。そこから次世代の仕事のやり方が学べるのではと考えました」

逆にいえば、日本の便利さ・物資の豊富さは過重労働のうえに成り立っている部分もある。果たしてその生き方が幸せなのか、もっと緩い働き方をしてもいいのではないか─ ─そうした思いから生まれたのが四角さんの新刊『超ミニマル主義』だ。これまでさまざまな生き方指南の書籍を出版してきた四角さんだが、こちらは働き方に特化したビジネス書だという。

「最近は変わりつつあるとはいえ、日本は今も労働時間が長く、長期休みがとりにくく、平均睡眠時間も短い。僕はニュージーランド以外にもヨーロッパなど世界65カ国を旅してさまざまな社会を見てきました。そこで日本より労働時間が短くても生産性・幸福度の高い国がたくさん存在するのを知りました」

労働時間を最短にしながらも仕事で最大の成果を出すのがこの本のテーマ。四角さん自身、ヒットメーカーとして多忙を極めていた時も休暇はしっかり確保していた。その経験も踏まえ、いかにやることを捨て、効率化し、大切なことに集中するかを伝えたいという。

「ある程度の不便さを受け入れ、スローダウンすること。要するに足るを知ることです。エンタメ業界でバリバリ働いていた僕だからこそ提案できる仕事術だと思います」

ニュージーランドの湖畔から発信されるメッセージが、新しい生き方と働き方のヒントになりそうだ。 

超ミニマル主義
税抜1, 900円 (税込2, 090円)

400 ページ

ベストセラー『自由であり続けるために20代で捨てるべき50 のこと』の著者、四角大輔が送り出す、余計なコト・モノを手放してミニマルであることで自分の可能性を最大化する方法が詰まった新著。「仕事術」「ワークスペース」「働き方」「スケジュールとタスク」「デバイスと情報」「思考と習慣」「超時短メソッド」「人間関係」「ストレスと脳疲労」「ビジネス装備」「バカンスの取り方」「深く眠る技術」…et c。

四角大輔
四角大輔さん
執筆家/森の生活者 / Greenpeace Japan & 環境省アンバサダー

大阪府出身。幼少期、自然に親しみ育つ。レコード会社プロデューサー時代に、10回のミリオンヒットを記録した後、ニュージーランドに移住。湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営み、場所・時間・お金に縛られず、組織や制度に依存しない働き方を構築。第一子誕生を受けてミニマル仕事術をさらに極め、週3日・午前中だけ働く、育児のための超時短ワークスタイルを実践中。ポスト資本主義的な人生をデザインする学校〈LifestyleDesign.Camp〉主宰。著書の中にはニュージーランドに関するものが多く、2018年に「LOVELY GREEN NEW ZEALAND」を発行、さらに2022年9月14日、新刊『超ミニマル主義』発売。

取材・文  Miko Grooby