映画『HAPPYEND』空 音央監督インタビュー

【NZIFF 2025 話題作】空 音央監督の長編デビュー作『HAPPYEND』 BUSINESS

New Zealand International Film Festival(NZIFF)話題作
『HAPPYEND』空 音央監督インタビュー

2025年8月にNew Zealand International Film Festivalで初上映され、10月30日より先行上映、11月6日より全国公開予定の空 音央監督の長編デビュー作『HAPPYEND』。

本作は、青年たちの葛藤と分断を、震災への不安を背景に描いた青春ドラマ。

GekkanNZでは、監督・脚本を務めた空 音央さんにインタビューを実施。作品に込めた想いや撮影の裏側について、お話をうかがいました。

この作品『HAPPYEND』を作ろうと思ったきっかけは何でしたか?

様々なきっかけが複合的に合わさって成り立っている作品ではありますが、一つ、大きなきっかけは2011年の東日本大震災です。当時アメリカの大学にいた私は、遠くから自然災害と原発の事故を眺め、それに対する政府や企業の反応に憤りながら、日本に来るたびにデモなどに参加するようになりました。それが自分が政治性の目覚めとなるきっかけでした。その後、日本における地震の歴史を調べていく中で、1923年の関東大震災時に起きた朝鮮人虐殺のことを知り衝撃を受けました。同時に、現代の日本もヘイトスピーチや排外主義が蔓延し、緊急事態条項のように権力が集中される仕組みが、歴史修正主義思想や、帝国主義回帰の欲望を隠さない人々よって整えられている状況を見て、「また大きな地震が起きたら似たようなことが起こってしまうのではないか」という危機感を抱きました。この映画は、日本の植民地主義時代から地続きな構造的問題を抱えている今の社会が、近い未来にどうなっていくのかという思考実験であると同時に、自分の青年期の感情を記録する装置としての側面もあります。

ユウタとコウ、二人の高校生の関係性にはどんな思いを込めましたか?

政治性による友情の崩壊による感情を描きたかったです。しかし、それには政治的な背景が必要でした。私は大学時代に、実際に政治心情や思想の違いで友情が決裂してしまう経験をしました。「お前にはわからない」とつっぱねたり、「一緒に戦ってほしかったのに」と期待を裏切られた気持ちになったり。どちらも経験したことがあるから、どちらの痛みも良く知っている。世界が崩れるような感覚でした。

友情とは曖昧なもので、恋人や家族のような規範がありません。でも友人に対する愛や信頼が深いほど、その相手に落胆した時に湧き上がる怒りや悲しみは凄まじいものです。自分が乗っかっていた地盤がガラガラと崩れ落ちるような感覚に陥ることがあります。そのような気持ちを映画に込め、見終わったあとに、しばらく話していない友達と話たくなるようなものにしたいと思いました。

映像面では、光や影、揺れる反射などが印象的でした。撮影や美術で特にこだわったポイントを教えてください。

地盤のように固い友情が崩壊することと、地震という現象を掛け合わせたため、「揺れ」には特にこだわりました。しかし、「揺れ」は視覚的・音響的に表現しないと映画では伝わらないので、撮影監督や美術監督と話し合い、それがいかによく伝わるかをこだわって作品に反映しています。また、撮影では背景に大きい建造物が見えるように撮り、空が映らないように構図を決めました。これによって、世界の圧迫感や、今にも崩れてきそうな建物を表現しようと試みました。

『理由なき反抗』や台湾ニューシネマから影響を受けたと伺いましたが、具体的にどのような点に影響を感じていますか?

『理由なき反抗』からは、大人への問いかけ、若者の生きづらさという感情。言葉にならないけど、大人が作り上げる不条理から逃げたくなる感情。しかし、否応なく社会の方から侵入してくる現実。その気持ちがよく反映されていました。台湾ニューシネマはリアリズムや都市空間の切り取り方、歴史的な瞬間のスケール感などを参考にしました。

この作品を日本以外の観客、特にニュージーランドの観客にどのように受け止めてもらいたいですか?

この映画の根底に流れているのは帝国主義と植民地主義の問題です。しかし、もちろんこれは日本特有の問題ではなく、現代的なネーションステートへ再編成された後も構造的に残り続けている現代社会の問題です。特に、マオリによる反植民地主義運動の歴史が根強くある土地で、HAPPYENDがどのように受け入れられるのかが気になります。

監督・脚本:空 音央(そら・ねお)

©Aiko Masubuchi

『HAPPYEND』は、空音央監督による長編フィクション映画デビュー作。ニューヨークと東京を行き来しながら活動する映画作家・アーティスト・翻訳家として知られる空音監督は、父でもある作曲家の坂本龍一のコンサート映画『RYUICHI SAKAMOTO | OPUS』(2023)で注目を集め、ヴェネチア国際映画祭での上映を果たした。

これまでに短編作品『THE CHICKEN』(ロカルノ映画祭 2020)や『SUGAR GLASS BOTTLE』(インディ・メンフィス映画祭 2022/最優秀短編作品賞受賞)などを手がけ、2021年にはFilmmaker Magazineの「注目すべきインディペンデント映画作家25人」に選出された。


10月30日より先行上映、11月6日よりニュージーランド全国公開予定

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