元NZ警察官・ラグビー通訳者 吉水奈翁さん『通訳は言葉とともに思いや感情も伝える仕事』

BUSINESS

2021年12月号掲載

ラグビー日本代表の通訳者として活躍している吉水奈翁さんは、ニュージーランドで初の日本人警察官という経歴も持つ。警察官時代、そして日本でのラグビー通訳業についてお話を伺った

日本でキーウィをサポート

ニュージーランドで初の日本人警察官というキャリアから、日本のプロラグビーチーム、東京サントリー・サンゴリアスの通訳者に転身した吉水奈翁さん。サンゴリアスで6シーズン務めた後、2020年からはラグビー日本代表チームの通訳となった。チームの半分以上が外国人、スタッフにおいては7割が外国人で、今はほとんどニュージーランド人だという。ニュージーランドに長年住んでいた経験は有利に働いているのではないだろうか。

「ハイランダーズの元監督、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチを中心に、周りのスタッフも必然的にニュージーランド人が集まってきます。僕は、ニュージーランド人ならではののんびりした特質にもなまりにも慣れていますので、やりやすい環境ですね。ニュージーランドにいたの?NZアクセントだねと会ってすぐ言われます。オークランドにいたというような具体的な話をすると、親近感が増し、距離がグーンと縮まりますね。まして警察官をやっていたと言うと、ええー!という反応をもらえますね(笑)」

通訳者に必要なのは

ミーティングや練習中、試合中もすべて通訳をする。ラグビーの戦術についても伝えるため、ラグビーを知らないとできないのがラグビー通訳。自身もプレー経験がある吉水さんは適任だ。しかしそれだけでなく、通訳する相手と良い関係性を作ることが大事だという。

「その人がどんなバックグラウンドを持つ人か、どんなことを考えているのかをわかっていると通訳しやすいですし、有効な通訳ができます。ロボットみたいに訳しても、気持ちを含め伝えたいことが、ちゃんと伝わりませんから。そのためにも、いろいろな性格を持つ選手ともスタッ
フとも、しっかりコミュニケーションを取るようにしています」

通訳業では、ビジネスやスポーツなどジャンルによって必要なものは異なるかもしれないが、コミュニケーション能力は最重要だという。スポーツ通訳の場合、記者会見では内容を的確に伝えることが第一だが、練習やミーティングの現場では、場合によっては自分なりに切り崩して、適切な言い方を考える。

「直訳でなく、その人の思いを感じ細かいニュアンスをくみ取って、言葉や言い回し方を選んだり、うまくまとめたりします。失礼のないように気を使って言っているなという言葉はそういう英語に、自分の思いを強めに言おうとしているなという時は強めの口調にしなければいけません。そこを察する能力は必要です」

「スポーツは熱くなるので、練習前や試合のハーフタイムなど、感情的に言い放つことがあります。それを僕がロボットみたいに言ったら伝わらないですよね。話す人が怒っている時は通訳者も怒らなければいけません。自分が思っていることではないのに感情を乗せるのは難しいですが、演じながら感情も言葉と一緒に伝えるということですね」

コミュニケーション力を磨け

警察官や通訳者と顔を変えても、ニュージーランドと日本間のサポートに尽力し続けている吉水さん。共通するのはコミュニケーションを大
切にしていることだ。将来通訳になりたいと思うバイリンガルの子どもたちへのアドバイスとしても、「どの仕事でもそうですが、人とのつな
がりをたくさん持って、いろんなことを経験すること。人と話し、関わりを持って人間性を磨いていくことが大切です」と語ってくれた。

ニュージーランドのスター選手の来日がますます盛んなラグビー界。現場にいる吉水さんはこう語る。「日本ラグビーは前回のW杯から注目度がさらに上がり、チームは強くなり、トップリーグ(現在〝リーグ1〟)に興味を持つ外国人も増え、観客は世界のスーパープレーに歓喜し、日本の選手は一流選手から得るものがあり、とすべてにおいてプラスだなと思います。ニュージーランドのスカイスポーツで日本のラグビーが放送されるようになったのも象徴的ですね」

宮崎合宿のジムにてアシスタントコーチのアダム氏と
宮崎合宿でのミーティング
宮崎合宿でのフィールドでスコット氏の通訳
夏の別府合宿でジェイミーHCと中村亮土選手と談笑
吉水奈翁さん

中学2年の時から22年間、オークランドに在住。父親が経営する修理工場での自動車整備士や警察官を経て、現在日本でラグビー専門のスポーツ通訳を担う。

Photo: © JRFU



取材・文 GekkanNZ編集部