インタビュー:DXで業務簡略化やスタッフの意識改革を実現

DXで業務簡略化や スタッフの意識改革を実現BUSINESS

写真左:Administrative Manager 脇 敬一朗さん / 写真右:Director 青木 哲さん
データ管理を担当している脇氏はDXを推進する上で欠かせない人物だ。

2022年11月号掲載

ニュージーランドの人手不足は深刻であり、政府も企業たちの声に応えるかのようにワークビザ改定などを行っている。この人手不足はホスピタリティ業界への影響も強く、店舗経営に悩むオーナーたちは多い。しかしながら、MUSASHI や KOJIRO など、12年以上にわたりオークランドで飲食店経営をしてきた青木哲氏はDX(デジタルトランスフォーメーション:事業をデジタル化し効率化することでイノベーションを起こすこと)を実現することで効率的な経営を進めているという。今回、青木氏に詳しく話を伺った。

DXを実現するツール

「さまざまな経営に関するデータをClaris FileMaker というデータベースプラットフォームに集約することで、多くの業務を効率化することができています。日々の作業に逃げることなく、経営に対して頭を使える時間が増えました。」と青木氏は言う。

Claris FileMakerは、Appleの100%子会社のClarisが開発販売している商品で、さまざまなデータを集め、そのデータをどう整理し活用するか、グラフ化するかなど自由にカスタマイズできるという。例えば、従業員のタイムカードシステムは、勤務時間をiPadへ直接入力してもらい、データはClaris FileMakerで集計される仕組みになっており、給与計算はもちろんの事、時折求められる過去の勤務履歴や、パンデミックによる補助金申請時に必要であった各人の労働時間の算出についてもスムーズに対応できたとのことだ。

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POSやウェブを介した販売データについてもClaris FileMakerに連結させ、売上や人件費を即日可視化できるようにしたという。

「こういったシステムを外部の開発業者に丸投げで発注した場合、開発期間は長く、費用は大きなものになり、依頼内容を途中で修正することは困難です。しかし、このClaris FileMakerを使えば、小さな規模の会社でも自分達でシステムをカスタマイズしながら、コストを抑えて効率化を早期に実現できます。ウェブサイトにもCMS(コンテントマネジメントシステム) という、コーディングをしなくても扱えるものがありますが、それのデータ管理システム版といったところでしょうか。」 

停電やインターネットの障害が多いニュージーランドのインフラ事情からシステムトラブルが多い事に悩んでいた青木氏は、自社にキャビネット型サーバーを置くのではなく、クラウド上にシステムを公開することにしたというが、安全性、 安定性はどうか?

「特にトラブルは今のところありません。停電などの影響も受けにくく快適です。 紙やサーバー機器などは、火災や盗難に巻き込まれればデータを失いますがクラウドならそういった心配はまずありません。」

公平な評価で離職率を下げる

経理面の効率化を進めている一方で、さらに顧客満足度やスタッフ教育にもDXを起こしていくつもりだという。

「お客様のアンケートもデジタル化する予定です。特典を用意してアンケートに参加していただき、それを従業員や各店舗の評価につなげていく。たまたま上司が様子を見に行ったときに運悪くトラブルが起きてしまっても、その日以外のサービスが良く、売上もコストも管理出来ているというデータがあれば、評価をより公平に行うことができるのではないでしょうか。また、お客さまの評価を即時に可視化することで、客観的に自分たちの働きを見れるようになると思います。」 


抽選つきの簡単なアンケートに答えると、食事券がテキストで即座に送られてくる。アンケート結果はその日のうちに集計されスタッフにシェアされる仕組みだ。

営業のデータを共有、可視化し、売上やサービスの質そのもので評価されることで、方向性を見失う事なく仕事に向き合えるようになるのではないかと青木氏は考える。感情や好き嫌いに左右される事のない、きちんとした評価は、職場の人間関係をサポートすると同時に離職率を下げる事ができるそうだ。他にも解決するべき課題は多岐にわたるが、システムを最大限に活用して、健全な風土のある企業を目指しているという。

「DXを活用して、まだまだやりたいことが沢山あるんです。価値ある商品とサービスを最大化するにはDXは欠かせないと確信しています。」

中小規模の会社の特色や在り方に合わせて業務データ処理をフレキシブルにカスタマイズできる技術を使い、業務を効率化するのみならず、社員のモチベーションまでも変えて いくことに挑戦する青木氏。人手不足の今こそ、中小規模のビジネスオーナーはこういったDXを取り入れてみるべきなのかもしれない。


青木 哲さん
青木 哲さん

MUSASHI や KOJIRO という飲食店を運営する Grace Earth 社をオークランドで創業し、12年以上経営。日本でも飲食チェーンで経験を積み、日本の食文化を海外で広めたいというと思いから、自然豊かな部分も気に入ったニュージーランドへ。脇敬一朗氏をIT部門に迎え、多国籍社会の様々なバックグランドを持った従業員80名以上を抱えながらDXで経理面の効率化を実現し、さらにスタッフの働く意識をも進化させることに挑戦している。
【Web】MUSASHI.GROUP



取材・文 GekkanNZ編集部