【高校教師 / 数学科主任】 敢えてコネのないニュージーランドで人間性を伸ばし、経験を活かして数学教師に – やんしんさん

高校教師(数学科主任)/オークランド 山本 真也(やんしん)さんBUSINESS

結婚を機にニュージーランドに移住した山本さん。日本でのキャリアを活かし、ニュージーランドでも数学教師として働くことを決意して準備を始めるも、当時は英語圏で働く日本の数学教師というロールモデルがいなかったそう。

ニュージーランドの学校での数学への意識の低さに愕然としつつも、日本の学校よりも授業内容を比較的自由にデザインできる特徴を生かし、日々生徒のため楽しい数学の授業の準備に邁進する山本さんに、就活の秘訣や、英語の苦労、高校数学の教育現場についてお話を伺った。

Q. 日本でも教員をされていたそうですね。ニュージーランドへ来たきっかけは何ですか?

最初にニュージーランドに来たのは大学卒業後の2004年、ワーキングホリデーを利用してでした。自分の人格がまだ教員になるには未熟だと判断し、言葉の通じないところで1年生活して、人間性を伸ばそうと考えた末の選択でした。なぜニュージーランドだったかと言うと、その当時英語圏でワーホリを受け入れていたのが、イギリス、カナダ、オーストラリアとニュージーランドだけで、全くコネがない場所がニュージーランドだったからです。自分を厳しい環境に置くために、敢えて全くコネがないニュージーランドを選びました。

ワーキングホリデー後は帰国し日本で教員をしていたのですが、2008年にワーキングホリデー中に出会ったニュージーランド人女性と結婚し、2011年の年末にニュージーランドに移住しました。

Q. ニュージーランドで教員になるにあたって、何をどのように準備されましたか?

僕が移住してきた2011~2012年頃には、「日本での数学教師経験を活かして、ニュージーランドや英語圏で数学教師になった」という情報が全くなかったので、ニュージーランドの教育関係のルールを取り仕切っているNZQAのサイトを自分で読み漁って調べました。

そこで分かったのが、まず、教員になる際に確実に必要なのが、英語の試験のIELTS7.0というスコアでした。それも、リーディング、ライティング、リスニング、スピーキング、全てにおいて7.0を取らないといけないというハードルは、もともと英語が苦手だった、移住したばかりの当時の僕からしたら、まさに無理ゲーでした(笑) 特に、この試験はライティングが最後に来るので、集中力が切れかけている上に、一番難しいライティングのテストに立ち向かうのは、本当に大変でした。

実は英語の試験は、IELTSだけでなく、CambridgeやISLPRというマイナーな試験もあります。IELTSと相性が悪い人は、他の形式の試験にチャレンジしてもいいと僕は思います。

日本での教員の経験がある場合、日本の教員免許、大学の卒業証明書、履修証明書、職務経歴書、研修経歴証明書、推薦状、無犯罪証明書、英語の試験のスコアをTeaching Councilに提出し、NZQAによる「その先生の資格がニュージーランドで教えるのに十分かどうか、その先生がニュージーランドの教育に必要な人かどうか」の審議に通ると、ニュージーランドでの教員登録ができます。(※2019年当時。現在は異なる可能性もありますので、必ずご自身で一次情報に当たってください。)文書は全て英文でそろえる必要があります。

もし、上記の審議に通らなかった場合、大学に行って、1年間のトレーニングコースを取ることで教員登録の資格が得られます。

Q. ニュージーランドでの就職活動はどのように行いましたか?

就職活動をする前に、僕がおススメしたいのは、Teacher aide(補助教員・以後TA)として働くことです。TAは色々なところで募集しているので、思い切って応募して、まずニュージーランドの教育現場で働いてみることで、本当に自分がやりたい教育活動がそこにあるかどうかを見るといいと思います。もし、まだ英語の試験に通ってないとすれば、英語の勉強にも確実になりますし、その上結構時給もいいので、一石二鳥にも三鳥にもなります。もしその勤務先が気に入ったのであれば、教員登録が済み次第申し込むことが可能ですし、気に入らなかったとしても、他の先生方と友達になれるので、ニュージーランド社会で一番重要なコネが手に入ります。

現に僕は、TAをしていた学校にすぐに採用になりました。ただ、その学校はパートタイムでのスタートで、1年間働いた後もパートタイムにされそうだったので、就職活動して別の勤務先を探しました。

就職活動では、初めは、CVを作り、カバーレターを書くという方法で何校も申し込みました。しかしニュージーランドでのまともな経験がない僕のような外国人は、書類審査すら通らないのが普通です。そこで、申し込む前にその学校を訪ねて、僕の人となりを見てもらってからCVを送るやり方に切り替えると、さっと決まりました。僕の場合は、当時は自分の勤めている学校以外にはコネがなかったので苦戦しましたが、もし、これを読んでいる人で同じような境遇になりそうな人がいたら、教員友達をできるだけ多く持っておくことをおススメします。

Q. 教員として働く上で、英語力はどれくらい必要だと思いますか?

まず、ニュージーランドで教員として働くということは、英語で授業をするということ、例えば「面積が2平方センチメートルである正方形を書いてみてください。」という指示が英語でできるということです。僕は学校で教える前にもプライベートで英語で家庭教師をしていたので、それくらい大丈夫だろうと思っていたのですが、実際に教壇に立つとかなり嫌な汗をかきました。ただ、苦戦したのは最初の1年だけで、2年目にはもう問題なくなっていました。

次に大変なのが、保護者との面談です。なかなか言いたいことが言葉にならなかったり、夕方過ぎて、脳が疲れているせいで相手の言っていることが聞き取りにくくなったりして、最初は本当に苦労しました。しかしこの症状も、大体3年目にはなくなりました。

僕はIELTSのスピーキング、リスニング、共に8.0以上取ったことがあるのですが、このスコアを取ったあとでも、実際の教職に就くと初めの1、2年はこんな感じです。英語という観点から見ても、TAからスタートして、現場での経験を積むのがいいのではないかと思います。

Q. 「ニュージーランドで働く」ならではの楽しさや魅力、やりがいについて教えてください。

ニュージーランドでの授業は、授業内容は現場の教員に全部任されることが多いです。決められた教科書などはなく、教えるべき数学的なコンセプトのリストを渡されるだけで、それをどのように教えていくかは、全て教員の裁量なんです。なので、自分の好きなように授業をデザインできる楽しさがあります。その反面、日本と比べると、授業準備にはかなり時間がかかります。僕は、今年は高校三年生のトップのクラスを受け持っています。初めてこのクラスを教えるので、ゼロから計画を作り、ゼロから問題を書いていっているので、楽しいですが、かなり時間がかかっています。

Q. また反対に大変なことや難しいと感じる部分はありますか?

生活指導面や、学習への意識の低さとの格闘には骨が折れます。生徒の親が「数学なんて何の役にも立たない」と子供に言ってしまっている家庭が多く、そういった親に育てられた子供に数学を教えるのは本当に大変です。ニュージーランドに来た当初は、3x4の計算結果を出すのに5秒以上かかる高校生が沢山いることに驚愕しました。こうやって我が子の進路の幅を狭めてしまう親の数が少しでも減ることを願ってやみません。

Q. ニュージーランドと日本での働き方の違いなどはありますか?

ニュージーランドの労働環境は、僕が働いていた日本の労働環境と比べると圧倒的にいいです。

僕が日本で教員をしていた時は、家を出るのは朝7時前で、帰ってくるのは午後10時ぐらいでした。土日は大体部活で、3カ月間、1日も休みがない時期もありました。

それに対し、今は、学校の近くに家を買ったので、家を出るのは朝8時、帰ってくるのは遅くて午後5時です。午後5時半を過ぎてしまうと、学校にセキュリティロックがかかってしまうので、急いで帰らないといけません。部活も基本的に希望制なので、大変な課外活動や部活動を運営しない限り、土日は基本的に休みです。年間12週間ほどある長期休暇は、基本的に休むためにあります(進学校は違うと思います)。長期休暇中は、極力僕も同僚への仕事関係のメールはしないようにしています。おかげで、家族の時間がたくさん取れて、子育てを楽しむことができています。

Q.今年から数学科の主任になられたとのことで、おめでとうございます!主任になって働き方は変わりましたか?

ニュージーランドで主任になると、週に4時間、事務作業をするために空き時間が増えます。給料は大体20%増しぐらいになります。いい事ばかり!と思われるかもしれませんが、実は今、授業計画を立てる時間が満足に取れないという悩みがあります。楽しい授業というのはかなり準備しないと成り立たないのですが、主任になってから、数学の授業関連以外でめちゃくちゃ忙しいことが増え、授業準備に取れる時間が減ったのです。

まず、当校の数学科教員が今年に入ってほぼ全員入れ替わったため、主任である僕が、あまり経験のない先生方の補助に回ることが多くなりました。また、年度初めは、新しい環境に不安を覚える生徒や保護者の対応に追われることも少なくありません。それと同時に、書かなければならない書類や受け取るE-mailの量も増えました。昨日は39件のメールを受信し、19件もメールを書いています。そのうち2件はA4サイズにぎっしりの量です。まさに真夏のsnowed underという表現がぴったりですね(笑) でも、数学科の先生方が明るく楽しい方ばかりなので、大変ながら、楽しんで仕事させてもらっています。

【さいごに】これからニュージーランドで教員になりたいと考えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。

Resilience!七転び八起き!上手く行かないと言うことが起きた時は、自分を成長させられるチャンスなんだ、と思う癖を付けることが、ニュージーランドで教員になる一番近道なんじゃないかと思っています。

もし、ニュージーランドで真剣に数学教師になりたいという方がいましたら、Japanese Teachers ConnectというFacebookのグループに参加してみてください。その場では色々な人が質問に答えてくれるコミュニティがありますし、僕の学校での奮闘記も読むことができます。



山本 真也(やんしん)さん

日本では、香川県と東京都での数学教師を務め、2011年の年末にニュージーランドに移住、日本語補習校や現地の学校での補助教員として勤務を経験し、2020年より正規の数学教師として勤務開始。現在は西オークランドのKaipara Collegeにて数学教師として勤務(今年は日本語も教えている)。
NZ人の奥さんと2人の娘と、Helensvilleという小さな町に住んでいます。
世界中の日本の教育者を結ぶ Japanese Teachers Connect 代表。

【note】https://note.com/mryamamotonz
【X】@NZYanShin

取材・編集 GekkanNZ