山形県置賜総合支庁で観光振興を担当されている安部優佑さん。山形の観光施策に反映できるような調査を目的にオークランドに語学学校に通いながら2週間滞在されていました。
観光産業連盟(TIA)の調査によると、国内の雇用の11%以上を観光業が占めるニュージーランド。自然環境の保全を継続しながら、多くの観光客を魅了させている秘訣は何か…
山形の魅力を世界の人に伝えたい!という思いを持って、自らの足でオークランドの街を歩き、観光名所を訪れ、人々に触れた中で、様々な発見があったとのことで、お話をお伺いしました。
普段はどんなお仕事をされているんですか?
山形県置賜総合支庁の地域産業経済課観光振興室で働いています。主に、観光客向けのSNSの運用や、観光者数の調査などを担当しています。今のところは日本人向けですが、今後はインバウンド向けに英語で運用したいと考えています。
研修の目的は?どうしてニュージーランドに?
インバウンド観光客の活性化のために来ました。山形県は、人材育成に力を入れていて、ニュージーランド研修には、時期はバラバラで訪れる地域も別ですが、私を含めて5名参加しています。2週間滞在し、語学研修と現地研修を行いました。現在、山形県への外国人旅行者は、中国、台湾からが多くを占めているのですが、今後より多くの地域から訪れてもらいたいと考え、語学力を身に付ける事、国際感覚を身に付ける事を目的に訪問しました。
語学学校はいかがでしたか?
9時から授業が始まって、グラマーの授業を2時間受けて、昼休み、その後スピーキングのクラスがあって、2時半で終わります。クラスには12人いて、うち3人は日本人ですが、他はタイ、チリから来ている人たちです。南米の人たちの感覚が全く違うことに驚きました。カルチャーが違いすぎて、自由人。日本人はシャイですよね。
ホームステイ体験はいかがでしたか?
ニュージーランド人の60代くらいの夫婦の家庭にお世話になっています。着いた初日に親戚の集まりのパーティーに連れて行ってもらって、英語のシャワーを浴びました。
何か印象的だった出来事はありますか?
バスの中での印象的な出来事があります。アジア系の乗客に対して、汚いスラングをぶつけている人がいたんです。その時に他の乗客たちがその人に駆け寄って大丈夫だよと励ましていた姿に感動しました。みんなが駆け寄って、バスも一旦停車して。あったかいなあと。
滞在中は、どこに行きましたか?
マウントイーデン、ワンツリーヒル、スカイタワー、オークランド動物園、オークランドの図書館にも行きました。街歩きをよくしました。特にポンソンビーが印象に残っています。クイーンストリートは東京を歩いている感じでそこまで感動はしなかったんですが、ポンソンビーを歩いていると、ローカルなお店が多くていいなあと。デボンポートも綺麗でした。オークランドはシンプルでコンパクトで回りやすくていいなあと思いました。
あと、現地の本屋さんに行って、ガイドブックをみてみたんですよ。山形県が日本のガイドブックに何ページくらい載っているのかが気になって。すごく分厚いガイドブックの10ページくらいしかなくて、ちょっと載っていたくらいだったんです。ホストファミリーに山形県のイメージを聞いてみたら、知らなかった。「東京の南なの?北なの?」という質問をされて、あんまり興味を持ってもらえなかったというのが正直なところでした。そこで、ニュージーランドで日本の観光についての情報はどこで発信されているのだろうと思い、ラーメン屋で日本人の店主に話を聞いてみたら、新聞に割と載っているよと教えてもらったりもしました。
日本との違い、何か発見はありましたか?
観光案内に関して、日本と全然違うなと驚いたことは、アイサイトです。全国どこにでもあって、アクティビティや宿泊の予約ができますよね。日本の自治体には、統一された観光案内システムがなくて、何かを予約する機能はないんです。統一されていないために、観光でどこに行ったらいいか、どこに泊まったらいいかという質問が、行政の窓口に電話がかかってくることがあるんですが、立場上、特定のこの場所がいいですよとは言うことができない。個人的にはもちろんあるんですが、行政としては好ましくないので。アイサイトのようなシステムが導入できたらと思いました。
研修を経て、今後の仕事に活かしたいことは何ですか?
シンプルなところですね。情報が簡素化されていてわかりやすいところ。山形の道の駅に行くといろんなパンフレットが置いてあって迷うんですけど、ニュージーランドは何をするかが決まっている、限られている。山形県でも、もっとシンプルに訴えかけられるようなものにできたらと思いました。いっぱいいいところがあるから、全部を発信したいという気持ちがあるんですけど、ニュージーランドは一つ一つが洗練されていると感じました。同じく県庁の広報課からも研修に来ている職員がいるんですが、一緒のことを思っていました。ポスターもないし、パンフレットも少ないよねと。それが新鮮に映りました。日本は、情報過多かもしれないですね。行政としては、置賜地域でいうと8市町があって、何か観光の情報を発信する時は、それぞれの情報を平等に発信することが我々の役割としては必要なことですが、旅行者目線から見ると必ずしもそうじゃないのかもという気づきがありました。そこに葛藤があるんです。難しいですね。
それから外国人観光客の調査で、来日前と後の目的を聞いた質問項目があって、日本に来る前の目的は84%が「日本食を食べること」だったんです。ただ、旅行後に「次回何を求めるか」という質問に対しては、「スキー・スノボー、温泉入浴、自然体験ツアー、農村体験をしてみたい」という回答が、訪日前に比べて2倍近く上がっているんですよ。ここから体験型がヒントかなと思って、山形でも民泊であったり、観光資源を活かしたアピールができたらと考えています。
山形県のおすすめスポットを
教えてください。
いっぱいあるんですけど、まずぜひ海外の人にも知ってもらいたい場所の一つが、上山市にある「氷瀑(ヒョウバク)」。車で簡単に行ける場所ではなく、アイゼンやかんじきを履いて歩いていかないと見れない景色。そういう体験ができる場所。
アオモリトドマツという松の木に雪がついた樹氷も見ることができます。次に、寒さで下から生えてきているように氷の柱ができた「氷筍(ヒョウジュン)」は米沢市にできた新たな観光スポットです。
白川湖の「水没林」もおすすめです。雪解け水をダムとして溜めているため、4月5月にしか見られない幻想的な景色です。5月の終わりになると水を流してしまうので、春しか見られない景色として人気が出てきたスポットです。
今後やりたいことはありますか?
こうした山形県の美しい自然や景色をまだまだ海外の人に知ってもらえていないなあと感じているので、広めていきたいと思っています。元々農家民宿が盛んな地域でもあるので、民泊と組み合わせてきてもらえる仕組みを作っていけたらなあと考えています。山形県は目的地にしないと来てもらえないという意見がよく出ます。大きな駅や空港があるわけでも、京都や東京のように観光地化しているわけでも、宿泊施設がたくさんあるわけでもない、ハブにするところではないから、来たい!と思ってもらえる目的を発信することが大事だなと考えています。
次にニュージーランドに来たらやってみたいことは?
羊の飼育体験をやってみたいです。民泊みたいなこと。持ち帰って報告します。2週間では足りないですね。次は1ヶ月くらいいたいです。
取材・文:安部 さくら