インタビュー:アクション監督 野口彰宏氏

BUSINESS

2021年6月号掲載

日本人スタントマンは世界一

ハリウッドをはじめ海外からも撮影ロケ地として、注目されているニュージーランド。『パワーレンジャー』の撮影も毎年行われているのを知っているだろうか。アクションの指揮を取るのは、日本はもとより世界各地から引く手あまたの 口彰宏監督だ。今回、忙しい撮影の合 に、オークランドで話を伺うチャンスを得た。

日本人のスタントが求められた

『パワーレンジャー』(以下『パワレン』)は、1993年に日本の〝スーパー戦隊もの〞をリメイクしたアメリカのテレビシリーズだ。しかし、シーズン1の撮影後半から、野口彰宏氏所属のアルファスタントチームが日本から呼ばれることになった。

「日本の〝戦隊もの〞と同じものを作ろうと思ったけれど、自分たちでは何かが違うと気づいたのでしょう。〝戦隊もの〞は言わば日本の芸能文化ですし、日本の映像にマッチさせる必要もあったので、日本人監督やスタントマンを呼ぼうとなったようですね」と振り返る。 口監督が『パワレン』に呼ばれたのは、マットも敷かずにアメリカ人がやらないようなアクションができるスタントマンとして抜擢された映画『ガイバー:ダークヒーロー』での評価がきっかけだ。これ以降、アメリカでは、特に〝戦隊もの〞に しては、日本人が作るものが本物で、日本人を呼べば良いものが作れると思われるようになっていく。

さらに、『ラストサムライ』をはじめ、刀を使う芝居や、ヤクザや忍者などのキャラクターが必要な作品で、日本のスタントマンの存在が大きくなっていった。

スタントマンに必要なのは

アメリカをメインに、カナダや南アフリカ、東ヨーロッパ、アジアで、スタントマンとしても監督としても活動してきた野口監督は、海外でのアクション撮影の難しさをこう語る。

「アメリカの作品を作る時に、スタントマンを各国で現地調達して撮影するわけですが、オーディションをすると、一昔前は本当の格闘家が来たりしたんですよ。彼らは、技はうまくても表現力がなかったり、スタントマとして来る人は頑丈なだけで、技や演技ができなかったりと、人選も練習も大変でしたね」

「スタントは体を張る仕事というだけではないんです。ただ落ちるだけでも言われたままにやるのでもなくて、演じながら落ちなければなりません。特に『パワレン』は役があるから難しいですよ。台本を読み込んで、役のセリフを全部覚えて、実際に英語でセリフを言いながら動きます。俳優さんの表現法をイメージして立ち回りを作っていく必要もあります」これをこなせるのが、監督が毎年日本から選んで連れてくる日本人スタントマンたちだ。彼らの意識の高さも海外では抜きん出ている。

格闘技術を本物らしく見せるのがスタントマン必須のスキル

「日本人は、よく気づきますし、一番考えるし、『求められる以上の良いものを作ろう』という貧欲さがあります。〝団結して、一体感を持って一斉に動く〞というのは日本人の特質だと思うのですが、アクションを作る上では非常に必要なことです。現場での的確な動きや安全性、撮影をスピーディに回す力につながっていきますから」

撮影現場を先導するのは、監督はもちろん12人の日本人スタントマンらやベテランスタッフ。彼らと1クールの9カ月間働き、意識や要領を学んだ若い現地スタッフたちは、その後ニュージーランドの撮影現場を回す立場になっていくのだそうだ。

「『パワレン』の撮影の早いペースに着いていけたら、ニュージーランドのどの現場でもやっていけると言われていますね。でも、日本人は一呼吸おいた方がいいなって思う時もあるので、ニュージーランドのゆったりした感じは、良い具合に融合しているかもしれませんね(笑)」

スタントが楽しすぎる!!

今では『パワレン』のアクション監督が定着しているが、実はスタントマンとしても現役。コロナ前にはタイでヤクザ役をやってきているという。「やっぱり、スタントは楽しいですからね。集中してその瞬に懸けるというのがいいんですよ」と顔をほころばせる。「でも怖いとか痛いとかありますよね 」と 暮な質問をすると、「楽しい、しかなかったですね。鍛えようと思って鍛えてこともないし、練習がつらいなんてなかった。痛いのも楽しいうちに入りますから」と苦労話は出てこない。両足のアキレス腱を切って半年動けなくなった時のストレスは相当なものだったそうだが、その間自分が動かなくてもできる、指導や振り付けを考え始め、今の監督としての地位があるのだという。

監督が素人からプロへと鍛え上げたブルガリアのスタントチーム

そんな野口監督のスタントマンへの目覚めは中学1年生の時。小学生のころはブルース・リーに憧れて手作りヌンチャクを作ってまねしていたそうだが、カンフー映画のあるシーンが、少年の心に火をつけた。

「『この人、死んだんじゃないかな』と思ったシーンがあったんですよね。窓から飛び出して、角にあたって地面に落ちるシーン。みんなは流すと思うんですが、その時僕は、スタントマンになると決めました(笑)」

30年間のパワーレンジャー愛

『パワレン』のためにアメリカに行ったのは、24歳の時。当初4カ月の契約と言われたが、現在29シーズン目、スタントマン兼監督の時期も経て、30年近く携わっている。

「あっという間でした。その間いろいろな撮影に関わってきましたが、人生の基軸はこの作品と言ってもいいくらいです。だからこそ今後も、最初からの思いを引き継いでいける日本人チームで、続けて行きたいなと思いますね。毎話毎話を最終回と思って同じ気合で取り組んでいますよ」

冗談も挟みながらも、スタントアクションにかけるパッションを語ってくれた野口監督。『パワレン』の長い歴史を作り上げ、これからもニュージーランドをはじめ、世界のアクション撮影現場に大きな足跡を残していくだろう。

雄大な景色に会うと倒立や飛び蹴り写真の撮影がスタンtマンの定番

日本人スタントマンが語る、ニュージーランド撮影現場事情

レッドレンジャーのスタントマン、
新田匡章(まさあき)さんから現場を見ると…。

①のんびりムード!からの

「最初は現場の“のんびりさ” に驚きました。日本なら、雨が降れば衣装が濡れないように走って傘を取りに行きますが、ここではまず走らない。晴れ間がある時に撮影しないと、という意識もないですね。ところがだんだん、現場のスピードが上がりスムースに回るようになっていくのも驚きです」

②和気あいあいの人間関係

「アメリカ人もニュージーランド人も新日で、仲が良いです。日本人へのリスペクトを感じますし、今回は『コロナ禍の中、家を空けてよく来てくれた』という気持ちで迎えていただきました。週末前には撮影現場で飲んだり、撮影の区切りごとに誰かがホームパーティーをやったりと楽しいです」

③見たことのない大掛かりな機材

「7メートル四方の巨大テントをクレーンで吊って屋根を作ります。日本なら待機か中止かのところを雨の中でも撮影できるんです」

④ロケ飯でハッピーに!

「ベジタリアンデーもあり、ラムやコリアンなどケータリングが充実しています。一人一人に合わせて、違う種類のコーヒーを何十杯も一度に作ってくれるのですが、その一杯がありがたく、現場の潤滑油です」

⑤NZらしさ⁉ 女性が活躍

「現場もマネージメントも女性スタッフが多いのもニュージーランドロケの特徴かもしれません。フードトラックの企画や契約 料の細やかさなど女性的な配慮や柔軟な対応が年々増えてきてますね」

野口彰宏 監督

アクション監督・スタントマン・演出家。海外での愛称はYuji/ユウジ。倉田プロモーションを経て、1990年、アメリカに渡り多数のTVドラマやミュージックビデオ、CM、映画でアクション監督、スタントコーディネーター、スタントマンとして活躍。『アルファスタント』を共同設立し、現在日本・海外のドラマや映画を手掛けている。



取材・文 GekkanNZ編集部

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