【保育士】日本でニュージーランドの「テ・ファーリキ」を学び衝撃を受け保育士に ー 谷島さん

キャリアインタビュー 保育士 谷島さんBUSINESS

日本の大学院でニュージーランドの「テ・ファーリキ」を学び衝撃を受けた谷島さん。
季節労働をしてワーキングホリデーを延長し、その中で見つけたリリーバー(資格なしで働ける補助の先生のような役割)というポジションに就き、実際に働きながらIELTS 7を取得して保育士に。

ニュージーランドで働くなかで感じたこと、心掛けていることなど、保育士の魅力を伺った。

Q. ニュージーランドへ来たきっかけは何ですか?

2014年にワーキングホリデーでNZに来ました。最初は教員資格を所得するためIELTS 7を目指し、英語とIELTSの勉強をするために6か月英語学校に行って勉強しました。

ニュージーランドを選んだ理由はいくつかあります。1つは、23歳の時にニュージーランドに1か月短期留学をして、ホームステイもしました。この留学は午前中に英語学校、そして週に3日午後は現地の保育園にボランティアにいくというものでした。この経験から、ニュージーランドに住むというイメージがつきやすかったです。

2つめの理由は、日本の大学院で勉強していた時に授業でNZのTe whariki(テ・ファーリキ)が取り上げられました。そこで、「子どもは産まれながらに有能である」「子どもは遊びから学ぶ」「子どもの個性が大切にされる」という事を勉強し、「僕がNZで短期留学していた時に感じていたとこはこういう事だったのか!」と衝撃を受け、この時期から「NZで実践者として保育者をして、たくさんの事を学びたい」と思うようになりました。

Q. 現在のお仕事を始める前はどのようなお仕事をされていましたか?

NZに来て6か月間IELTSを勉強しましたがバンドスコア7に届いたのはライティングのみ(教員資格取得には4教科すべて7が必要)、ちなみに、僕がNZに来たときはバンドスコアがOver allで5でした。6か月勉強して目標スコアに届かずに落ち込んでいましたが、季節労働を3か月すると、ワーキングホリデービザが3か月伸びるという事を知り、タウランガ近くにある、カティカティという町でキウイフルーツピッキングをすることにしました。ずっと勉強していた中で、バックパッカーで過ごしながら多国籍の人との関りはとても新鮮で楽しかったです!しかしながら、キウイフルーツピッキングは、雨の日や雨上がりは収穫がなく、安定しない収入かなりの肉体労働でつらい日も多々ありました。
その後、キウイフルーツのパッキング(包装)工場でも働き1日12時間勤務も経験。これも、チームが多国籍で仕事がオフの日には、家に集まって各国の料理をふるまって食べるパーティー等もしました。

カティカティで滞在してた家族に4歳の双子が地元の幼稚園に通っていて、そこでボランティアができないか相談すると快くOKを頂きました。勤務がない日には、その幼稚園でボランティアをさせて貰い、そこで初めて「NZでは教員資格がなくても保育園で働けるポジションがある」という事を知りました。 

常勤勤務の先生が病気やホリデーで欠勤する時に補助として入るリリーバーという役職があり、それに応募しました。NZの現地の先生も、最初はクラス担任ではなくリリーバーから初めて、経験や園からの信頼を 得てからクラス担任になるという道が一般的のようです。

Q. ニュージーランドで保育士になられた経緯について簡単にお聞かせください。

カティカティでキウイフルーツ関係の仕事をしながら、Emailで自分のカバーレターやCVをオークランドやハミルトンの園に送り(確か20園くらい)、3園程から返信があり面接の日程を決めました。そして、最初に連絡をくれたオークランドの園で面接をし合格。念願の「NZで保育者になる」という夢が叶った瞬間でした。このオークランドの園の園長先生は僕と面接をした後に、カティカティの園長先生に電話をして、僕の働きぶりを聞いたようです。そして、カティカティの園長先生が良いフィードバックをしてくれたようで、仕事が決まりました!

キウイフルーツ収穫も楽しんで行っていましたが「NZで保育者になりたいと思ってここに来たのに、俺は何をしているんだー」と叫びたい毎日でした。

Q. 現在のお仕事に就くために必要な資格などがあれば教えてください。

2022年現在では教員資格が無くても、クラス担任になることができます。しかしながら、教育省は将来、教員資格保持者が100%になることを目指しているので、いつそうなるかは分かりませんので、もし興味がある方は早めに来ることをおススメします。

教員資格取得にはいくつか道があります。

①日本で教育系の4年生大学を出ている場合は、その学歴、5年以上の勤務経験、そしてIELTS等の英語力の証明で教員資格が出ると教員資格の発行をしているティーチャー・カウンシルのウェブサイトで記されています。

②それ以外の方は、NZの学校に1年から3年通う事で教員資格を取得することができます。 

僕は、日本で取得した修士号と合計12回受けてやっと全ての教科で7が揃ったIELTS 7のスコアをティーチャー・カウンシルに提出して、ストレートで教員資格が出ました!

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Q. ニュージーランドで保育士として働くなかでの楽しさや魅力、やりがいについて教えてください。

沢山魅力はありますが、ニュージーランドで働いて最近思う一番の魅力は、子どもも保育者も保護者も「Strenghs-based(強みを大切にしている)」であるという事です。

保育者は子どもの強み、個性、興味を観察や保護者との会話の中で探し出します。そして、それを保育者の中で話し、その子の興味関心が広がるような活動は何かを考えていきます。 僕は最近、「子どもの興味・感心」=「個性」だと感じているので、その子の興味・関心を知って大切にしていく事が、その子らしく育っていくのではと思っています。

そして、この強みを大切にしているのは保育者同士でも一緒です。保育の中で、音楽やアート、運動遊び、科学等様々な分野を子どもが経験できるようにと意識しています。そこで、それぞれ先生が持つ強みを発揮してチームとして保育をしていこうという雰囲気があります。僕は日本文化や玩具、運動遊び、楽器遊び等自分が持つ強みが発揮できるように、お互いが尊敬しあい保育を考えていきます。その中で、苦手な分野があったら他の先生にお願いするとこともしやすいです。たとえば、僕は文章を書くのには時間が掛かる為、どうしてもムリそうな時は他の先生にお願いします。そして、その代わりに園庭の片付けや掃除、また文章を書くことをお願いした先生のラーニングストーリーを書く等、僕ができる事をやったりします。 

このように、子どもも保育者もリラックスして時間を過ごせるように という雰囲気が魅力だと思います。

Q. また反対に大変なことや難しいと感じる部分はありますか?

難しい事としては、多国籍、多文化の中で保育をするのが難しいと感じることがあります。文化によって、保護者が大切に感じているのが違うので、その家族の事だけでなく、その家族の文化についても勉強するようになりました。僕は、中国や韓国、台湾等東アジアの教育観は日本と近いものがあるので理解しやすいと感じていますが、中東やアフリカ諸国の方々とはニュージーランドに来てから接するようになったので、どのようなお祭りをお祝いするのか等を勉強すようになりました。また、その家族の自宅での言葉で挨拶するようにも意識しています。

Q. ニュージーランドと日本での働き方の違いなどはありますか?

大きな働き方の違いは「残業はしない」という事だと思います。働き始めた時にラーニングストーリーを勤務時間中に与えらた時間で終わらなかった為、自宅に持ち帰って書きました。それを、当時のクラスリーダーに伝えると「それは良くない。勤務時間以上に働かなくてもいいようにする為、私にできることがあったら遠慮なく言ってね」と言われたことがとても印象的でした。ミーティングで保育のプランニングや行事の内容を話している時も「先生、保護者、そして子どもたちが負担に思うような内容になっていいないか?もし、そうならどこを変えていけばいいのか?」を常に話しています。よく「Work smart, not wrok hard」と言う先生もいました。

NZでは無理せずに、リラックスするというのがキーワードかもしれません。

Q. 谷島さんの著書「ニュージーランドの保育園で働いてみた」でも紹介されている「テ・ファーリキ」とは、どのようなものですか?

テ・ファーリキの説明は難しいですが、僕が魅力だと感じているのは「子どもは有能で、自ら学んでいく存在」と捉えている事です。学ぶことを熱望している子どもがその事を学べるように、子どもが持っている可能性(ポテンシャル)を発揮できるように保育者や保護者、地域の人はどのように協力し合っていけるのか?を常に考えていく事がテ・ファーリキで強調されています。

そのため、私たち保育者は何かを一方的に教える教師という役割ではなく、子ども一人一人の興味・関心を知り、子どもに関わる全ての人と協力しながら、その子の学びと成長をサポートするファシリテーターのような役割です。テ・ファーリキには「Every child is on a unique journy」と書かれています。この言葉から、子ども個人の学び、成長、発達、ペースを尊重して保育を考えていこうというテ・ファーリキのメッセージを感じます。これが、強く根底に流れているのがテ・ファーリキの魅力だと思います。

また、僕が「やっぱりテ・ファーリキ好きだな」と思う文章を紹介します。それは「Recognizing and appreciating their own ability to learn(こども自身が自分の学ぶための能力やスキルに気が付き感謝する)」です。この文章を読んだ時に「人生の基礎を養う幼児期に、本当に子どもに実感してほしいのはこのことだ!」と感動したのを覚えています。僕たち保育者ができるのは、環境を整えてサポートをすること。そして、その中で子どもだけでなく園に関わる全ての人が「自身の持っているものに感謝をする経験ができる事を目指す」というのがテ・ファーリキのメッセージなのではないかと感じています。

Q. 保育士として働く中で普段から心掛けていることや、他とは違った魅力はありますか?

保育士として働く中で心がけている事は、幼稚園や保育園にいる時は常にハッピーでいるようにという事です。なぜなら、子どもたちは僕がハッピーでいると安心し、心地よく遊びに集中すると感じるからです。子どもたちは、時には保護者と離れるののが大変な時もあるので、まず園が心地いい場所であることが前提であると考えているからです。その為には、保育者チームでお互いサポートし合う体制を何度も話合いますし、教育観や意見の違いがあったら、徹底的に話合い、皆が納得いく着地点を探します。いつも、このような難しい話になる時に、クラスリーダーやヘッドティーチャー(園長)さんのプロフェッショナルなマネジメント力に感銘を受けます!また、体調がすぐれない、精神的に疲れてきていると感じた時には正直にヘッドティーチャーに言ってシックリーブ(病欠休暇)を取るようにしています。もし、僕がシックリーブを取ったら、リリーバーの先生が来てくれるというのを知っているので、安心して休むことができます。子どもたちは、大人の一挙手一投足を見て学んでいるので、僕は常にいいコンディションで子どもと接していきたいと心がけています。しかし、もちろん常にその状態にいるのは不可能なので、その時は「ごめん、今日は疲れてるかも!」と心の中で、子どもたちに話しかけています(笑)

【さいごに】ニュージーランドで働きたい・起業したいと考えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。

僕が経験した中からのアドバイスですが、ニュージーランドで就職や起業を考えている方は「自分の強みは何なのか?」を自信を持って話せるように気持ちと英語の面で準備することをおススメします。

保育園や幼稚園の面接では「なぜ、私を雇うとあなたの園にとって利益になるのか?」という事を、30分~45分かけて話をする為、僕自身の強みとそれを説明するエピソードをできるだけ用意をしておきます。なぜなら採用する側は、現存のチームの強みと特徴を知っているので、採用候補者が現存チームに入って機能するのかを常に考えているからです。

最初は、日本と違う面接対策をしていたので、自分の強みを話し続ける事に違和感を感じて苦労しましたが、今ではこのスタイルに慣れてきました。これは聞いた話ですが、起業する方も「自分ができること、苦手な事」を隠さずにチームに話す事が本当に大切であるようです。自分が苦手な事を「できます」と言うと、そのチームの人がその言葉を基に仕事の振り分けをするので、最終的に苦労すると聞きました。

僕が日本にいた時は園長に「選んでもらう」というイメージでしたが、ニュージーランドに何園か働いた後には「自分で合うところを選ぶ」というように意識が変わってきたのを感じました。もちろん上手く行かない事も沢山ですが(笑)


保育士 谷島 直樹さん

谷島 直樹 さん

日本の異年齢保育の保育園で7年勤め、2014年にニュージーランドへ。
語学学校に半年通う。しかし保育士資格に必要な英語試験(IELTS 7)には到達せず資金が底つきかけたのでワーホリビザ延長のためキウイフルーツ農園で3か月くらい働く。農園で知り合った人に保育園を紹介してもらいボランティアをする。
そこで「保育士の資格がなくても働ける」と知りオークランドに戻って就職。大きめの保育園でリリーバー、3歳半以上クラス担任、小学校1年生担任を経て現在は幼稚園でクラス担任として勤務。
↑その間になんとか英語試験IELTS 7.0に受かりニュージーランドの保育士&幼稚園教員資格にあたる(Teacher Registration)を取る☺

■ 著書
『ニュージーランドの保育園で働いてみた: 子ども主体・多文化共生・保育者のウェルビーイング体験記』
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『海外でも日本の保育士は活躍できる!未来教育先進国ニュージーランドで働く-30-代男性保育士の日記』
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■ 学歴
聖徳大学大学院博士課程前期修了 児童学修士
オークランド工科大学 Postgraduate Certificate in Education
■ blog:『ニュージーランドの保育園で働いてみた
■ instagram:naoki_hoiku_ece_teacher(行った場所や食べた物の写真を載せてます!)

取材・編集 GekkanNZ