林床のスプリング・エフェメラル

園芸家が見つけた季節のたより 花と野菜と庭とLIFESTYLE

春の到来!そろそろあの春色カーペットがいい感じになっているかな?私の頭によぎるのは、クライストチャーチのカンタベリー大学、キャンパス内のガーデン。そこには美しい林床ガーデンがある。青紫色のシラー、別名ブルーベルとも呼ばれるこの花が、落葉樹の足元に一面に咲く景色は本当に見事だ。本来イギリスの自然の林床に咲くものは、イングリッシュブルーベル(Scilla non-scripta)と呼ばれる。茎は真っ直ぐでなく少し枝垂れ、花数は少なく小さいが香りは良い。葉は細く華奢で楚々とした印象がある。それに対して、多く出回っているのはスパニッシュブルーベル(Scilla campanulate)。花付きがより多いが香りはあまりなく、茎が真っ直ぐ立ち、広葉が特徴だ。

スパニッシュとイングリッシュで、同じブルーベルでもけっこう違う。
大きなシャクナゲの足元一面に咲く、ウッドアネモネの群生。

そして、白い星のような形の花が美しいウッドアネモネの群生もまた美しい。実際の名前は、アネモネ・ネモローサ。木漏れ日の中、たくさんの真っ白な花が空に向かって開く様子は、息を飲む美しさだ。それら早春の小さな花たちの開花期間はあっという間だ。木々の葉が展開する頃には、花は終わって、夏には地上部を枯らして休眠する。そんな一瞬の美しさを届ける、林床の花たちを、「スプリング・エフェメラル」と呼ぶのはご存知だろうか。直訳すれば春の儚さ。ああ、なんて美しい言葉!「久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 春の散るらむ」百人一首にこのような歌があった。無常だからこそ美しい。それって日本的美的感覚なのかしら?春色の儚い花たちのカーペットを見ながら、そんな事を考える。そろそろ桜も咲く頃だ。

Naomiさんとネコ先生
Naomi Goto Garrett
五嶋ガレット直美

日本でガーデンデザイナー、イラストレーターとして活動。
園芸雑誌や新聞へのコラム執筆、デザイナー向け講演も行う。
現在クライストチャーチ近郊に在住。

【ブログ】naomigarden8.com

2023年9月号掲載