息子の将来を考え海外移住を决意した菅谷さん。当初はほとんど英語は話せず語学学校からスタートし、コロナ禍での苦労を乗り越え日本での看護師経験を活かしてRegistered Nurseに。
ニュージーランドで看護師になるために必要な英語力や、日本との働き方の違い、またご自身の経験を活かして始めた、ニュージーランドで看護師や介護士として活躍したい人のサポート活動などについてのお話を伺った。
Q. ニュージーランドへ来たきっかけは何ですか?
2016年末に母子2人でニュージーランドに移住しました。
息子を出産したことをきっかけに、この子の将来について日本の行く末も含めて考えるようになりました。息子が大人になる頃には私が生きた時代とは全く違うものになるだろうとの予感がし、そんな中で息子には将来「世界のどこでも生きられる」ようになってほしい、日本以外にも住める選択肢をあげたい。そのためには海外移住が一番効果的だろうと考えました。
ニュージーランドを選んだのは、私自身が大学生の時にニュージーランドでホームステイを経験したことがきっかけです。その時にニュージーランドの文化や風土、国民性に触れ、この国なら住んでみたいなという印象を持ちました。
Q. ニュージーランドで看護師になられた経緯について簡単にお聞かせください。
移住当初は息子が現地小学校、私が語学学校からのスタート、その後ビジネスの専門学校で1年学びました。在学中のインターンや就職活動を経て、訪問介護士としての仕事を得ました。自分の空いた時間に現地のお年寄りのお宅に訪問し、着替えやシャワー介助などのケアを行いつつおしゃべりも楽しむ。そんな仕事内容は、海外で働くという最初のハードルとしては私には合っていました。
しかし介護士の仕事は当時永住権取得が難しい問題がありました。何人かの移民アドバイザーに意見を求めたところ、全員から日本での看護師経験を活かして看護師免許の書換をすべきだとのアドバイスをもらいました。日本にいる頃から看護師免許書換の制度があることは知っていたのですが、応募基準である英語要件がとても高かったので、自分には無理だと諦めていました。しかし専門学校や訪問介護士を経てニュージーランドで暮らし生きていく力が少しずつついてきたと感じたので、ダメ元で挑戦してみようと思いました。
その後コロナ禍に当たったこともあり色々な苦労がありましたが、英語試験や実習を何とか乗り越え、去年ニュージーランドのRegistered Nurseとして正式登録されました。現在は公立病院の内科病棟で看護師として勤めています。
Q. ニュージーランドで看護師になるためには高い英語力が必要だと思いますが、努力した点や苦労した点などはありますか?
はい、通常の技能移民より高い英語力が求められます。看護師はコミュニケーションが重要な職業であり、間違いがあると患者の命にも関わる可能性があるため、高い英語力が必要なのは当然ですよね。
私はOETという内容が全て医療関連のみの英語試験を選びましたが、自分の持つ医療知識は全て日本語で構築されていたので、医療用語や表現を一から英語で学びなおすのは大変な作業でした。それと毎日仕事と子供の寝かしつけを終えてから夜な夜な勉強をしていましたが、実は一番の強敵は睡魔でした。
工夫したことは、とにかく毎日続けられるように英語学習のタイムスケジュールを立て、「今日は何をやろう」という段階は省いてすぐに始められるようにしたこと、オンライン講座や添削などある程度投資をしてプロの力も借りたこと、楽しく続けられるように医療ドキュメンタリーや医療ドラマを見る等の息抜き的な学習も入れたことなどです。
高い英語力を獲得するためには、マラソンのような長期戦であるとの覚悟と戦略が必要だと思います。
Q. 現在のお仕事に就くために必要な資格などがあれば教えてください。
日本の看護師がニュージーランドの看護師免許書換に応募するためには英語力の他に、日本での看護学学士(大卒)資格を持っていること、過去5年以内に2年以上の看護師としての就労経験を有していること等が条件です(詳しくはこちら)。
さらにニュージーランド看護協会の審査をパスした後、CAP(Competency Assessment Programme)という、英語圏以外出身の海外看護師のための6~12週間の実習コースを受講する必要があります。指導者付きとはいえいきなり臨床業務に放り込まれるので、付いていくのにかなり必死でしたが、周りのスタッフに支えられながら何とか修了することができました。
(CAPは2024年で廃止し、書換システムが改変されることがアナウンスされています)
Q. ニュージーランドで看護師として働くなかでのやりがいや他とは違った魅力、普段から心がけていることがあれば教えてください。
やりがいを感じる瞬間は、多様な専門職や民族が交じり合う医療チームの中で、看護師としての力を発揮して、チームの一員だとという連帯感を感じられることです。ニュージーランドの医療チームは日本より役割や専門性が細分化されていて、なおかつ日本のような医師を頂点としたヒエラルキーではなく、チームメンバーお互いが対等な関係性です。チームが助け合いディスカッションしながら、患者や家族のために一つになって目標を達成する過程は、ニュージーランドの多様性をそのまま体現しているなと感じます。
患者やその家族が笑顔になる、感謝される時ももちろん喜びを感じます。チーム内でも患者や家族との関係でも、互いのリスペクトと”Thank you”が溢れているなと感じます。
またどんな場面でもあいさつや表情はもちろん、コミュニケーションのベースとなる自分の心身の健康をできるだけ良い状態に維持することを心がけています。
Q. また反対に大変なことや難しいと感じる部分はありますか?
一つはニュージーランドの医療現場のスピードが、日本と比べるととても速いことです。例えば2020年のデータで平均在院日数が日本で14.6日に対し、ニュージーランドは4.7日です(出典)。ニュージーランドは日本ほど医療リソースに恵まれていないので、限られた医療リソースの中でとにかく回転率や効率を上げることが解決策になります。数日仕事が休みだと入院患者がほぼ入れ替わっていることもよくあり、その変化の速さについていく柔軟性とタフさが求められると感じます。
あとは患者さんのサイズがとにかく大きいこと!100kg越えの方も珍しくなく、大きさに比例してとにかくケアの労働量がかかります。日本の小柄なお年寄りが時々懐かしくなります。
Q. ニュージーランドと日本での働き方の違いなどはありますか?
長時間勤務や奉仕が当たり前の日本と違い、労働者としての権利がきちんと守られているところです。残業しないのはもちろん、有給は必ず消化、病休保証、柔軟な勤務条件が選べることなどから、ワークライフバランスが保てるのがごく当たり前です。また患者からの暴力やセクハラ等の問題に対し、日本だと泣き寝入りするケースがほとんどなのですが、ニュージーランドでは毅然と対応し、事が起こった時には屈強な警備員のヘルプを呼べたりと、スタッフも人間であり当然守られるべき、という労働文化が浸透していることが全然違うなと感じます。
Q. ご自身の看護師経験を活かして始められた『We Kan GO』というサポート活動をされていますが、どのような活動か簡単に教えてください。
日本の看護師・介護士経験を活かして、ニュージーランドでも看護師や介護士として活躍してみたい人のためのサポートサービスです。私と仲間2人(日本の現役看護師と英語のエキスパート)で昨年(2022年)10月に立ち上げました。3人の知識と経験を活かして、看護師免許書換サポートの他に、英語学習アドバイスから渡航・就職支援まで、お客様の要望に合わせて柔軟に対応しています。
Q. お忙しい医療現場で働きながらこのような活動を始められたきっかけや思いをお聞かせください。
ニュージーランドの医療現場に出て気づくのが、病院全体見渡しても驚くほど日本人の医療スタッフが少ないこと。フィリピンやインドを中心に多くの移民が働いていて、他の民族グループは母国語も駆使して助け合っていますが、日本人の私は孤軍奮闘。
また患者として在ニュージーランド邦人が医療サービスを利用する時も、日本語が通じるスタッフがほぼ皆無ということになります。病気で弱った時に言葉の問題で苦労するのはつらいものです。でも母国語が通じる医療スタッフがいたらどんなに安心できるかわかりません。
この現状を打破するために、ニュージーランドで働く日本人看護師や介護士をもっと増やさなければという思いに駆られたのと、自分がニュージーランド看護師免許書換に挑戦した時、気軽に相談したり励ましあったりする存在がとても欲しかったので、日本人看護師さん介護士さんや日本人コミュニティのためにこれまでの自分の経験を還元したいと考えたことがきっかけです。
【さいごに】これから医療の分野でニュージーランドで働きたいと考えている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
日本人がニュージーランドの医療現場で働くことはかなりハードルが高いと思う方が多いかもしれません。確かに自国で英語で医療教育を受けた移民達と比べるとハンデはありますが、正しい方向の努力を継続することで、不可能も可能に変わります。日本での臨床経験や勤勉性・責任感・気遣い等の国民性は、ニュージーランドの医療現場でも喜ばれ、必ず通用します。
医療はチームで行うものなので、その土台となるコミュニケーションのための英語力だけではなく、相手をリスペクトしつつ、話し合いを恐れない勇気を忘れないでほしいと思います。
菅谷 美絵子 さん
2016年に母子でニュージーランドへ移住。この時ほとんど英語は話せず、語学学校からのスタート。ビジネス専門学校、訪問介護士の仕事を経て、英語力/交渉力/サバイバルスキルを磨く。独学でコロナ禍の中苦労しながらも、看護師免許書換のための英語試験を2020年に何とか突破。準備コース(CAP)の受講を経て、2022年念願のニュージーランド看護師登録を果たし、現在公立病院でRegistered Nurseとして働いている。同時に仲間と日本人看護師・介護士のためのサポートサービス”We Kan GO”を運営中
【Web】We Kan Go
取材・編集 GekkanNZ