靴は泥まみれ、崖からの滑落やハンガーノックもあったけど、世界中の素敵なハイカーに助けられた思い出のロングトレイル

靴は泥まみれ、崖からの滑落やハンガーノックもあったけど、世界中の素敵なハイカーに助けられた 思い出のロングトレイルAREA GUIDE

ロード・オブ・ザ・リングにあこがれてテ・アラロアを目指し、2023年2月に約4か月かけて踏破したとりさんに、テ・アラロアを実際に歩いてみて感じた魅力について伺いました!

Q .テ・アラロアを始めたきっかけは何ですか?

ピーター・ジャクソン監督の映画「ロード・オブ・ザ・リング」「ホビット」3部作が好きで、テ・アラロアのルートがロケ地やその近く、あと監督が生まれた街(※1)も通るからです。ニュージーランドの自然が好きなのと、歩きながらその地を巡ればただトレイルを歩くよりも楽しそうだと思いました。

※1:Pukerua Bay

滅びの山のロケ地Mt.Ngauruhoe

Q.スタートからゴールするまでどれくらいの時間がかかりましたか?

約4か月かかりました。途中で10日間、怪我で動けなかったり、天気待ちしたり、そのついでにサイドトリップしたりしたのも含めて4か月です。

Cape ReingaからSOBO(※2)でスルーハイクするなら、スタートするのは10月下旬〜11月上旬が良いと私は思います。一時中断したりサイドトリップをしたりしても、ギリギリ夏のうちにゴールできるからです。とはいえ、11月上旬でも北島は朝晩は冷え込みますし、ゴールが3月になると南島では朝晩が冷え込んできますのでご注意を!

※2:Southbound、 南向きに歩くこと

Q.トレッキング中はどんなものを食べていましたか?

トルティーヤにチーズやナッツ・サラミを巻いたもの、ミューズリーバー、ドライフルーツ、春雨ヌードルなど、嵩張らなくてしっかりエネルギーや栄養が取れるものを選んでいました。特にトルティーヤは薄っぺらい割にお腹が膨れるのと、食べ終わった後の袋(ジッパー付き)が良いゴミ袋になるので毎回買ってました。さすがに最後の方は飽きました。また、食事を済ませたらすぐに歩くか寝るかしたかったので、よほど寒くない限りクッカーやガスストーブ、カトラリーを使わずに食べられるものを選びました。

南島の途中から、スーパーが無く食料調達できない区間がしばらくあります。多くのハイカーは、北島を出る前に、フードボックスを預かってくれる施設(宿泊施設やキャンプ場)に送ります。この送料が高いので、フードボックスは送らずに、100km以上も離れた遠い街までヒッチハイクして食料を補給しに行く人もいますが、時間もかかるし面倒なので、オススメはしません。

Q.活躍したグッズ、これだけは準備しておくべきという装備、あればよかったと思うモノを教えてください。

【日焼け止め・帽子・サングラス】
ニュージーランドの紫外線はかなり強いので、必需品です。

【手ぬぐい】
汗拭き、日除け、バスタオル、枕カバー、止血など、毎日かかさず使っていました。

【縫い針】
水膨れの処理にも使えるし、デンタルフロスを糸として使えばギアの修繕もできるので活躍しました。

【爪切り】
爪のささくれ処理に。些細なことに聞こえるかもしれませんが、ささくれがあると歩いてる間ずっと気になるので。

【マグネット内蔵カラビナ付きコードリール】
スマホ落下紛失防止のために絶対必要です!私は地図や情報収集をスマホに頼っていたので、スマホの破損や紛失は死活問題でした。

【マグネット内蔵カラビナ付きコードリール】
スマホ落下紛失防止のために絶対必要です!私は地図や情報収集をスマホに頼っていたので、スマホの破損や紛失は死活問題でした。

【ソーラー充電式の折りたたみライト Carry the Sun】
暗闇を照らすのはヘッドライトで用が足りると思って日本に置いてきてしまいましたが、山小屋でヘッドライトを点けると眩し過ぎました。温かみのある灯りが好きなのでテ・アラロアが終わった後に買い直しました。

CARRY THE SUN Small Warm Light /
Orange Belt ¥3,190(税込)
©Landport Co., Ltd

Q.実際に歩いた中で、一番のお気に入り、一番の難所はそれぞれどこですか?

お気に入りは、Waiau Pass RouteのLake Constanceです。泊まろうとしていた山小屋が人気で混み合っていたため湖の周りでステルスキャンプをしました。天気もよかったので、山に囲まれた地形と美しい星空を眺めるために、この日はテントから頭を出して寝ました。

Waiau Passからの眺め
Tararua Range

難所はTararua Rangeです。アップダウンが激しいだけじゃなく、泥とそれを覆う草が多くて足元が見えないのがキツかったです。大袈裟でなく100回くらい転んだと思います。ハンガーノックと食料不足、崖からの転落、遭難、トレッキングポールの紛失・破損など散々な目に遭いました。その分、他のハイカーにたくさん助けられた思い出のあるセクションです。

Q.NOBO(Northbound, 北向きに歩くこと)とSOBO(Southbound, 南向きに歩くこと)どちらがオススメですか?

SOBOです。私もSOBOで歩いたのですが、SOBOの方がハイカーの絶対数が多いからか、たくさんの出会いや嬉しい再会がありました。NOBOは最後の最後に90 Mile Beachが待ってるのですが、ビーチ歩きは苦手なので、先にそれを終わらせたいという気持ちもありました。

Q.大変だったことや、身の危険を感じたことはありますか?

途中で7針縫う怪我をして10日間山に登れなかったことが一番辛かったです。一緒に歩いてたハイカー達とも離れ離れになり、クリスマスと新年で賑わっている街で安静に過ごすのは色んな意味でキツかったです。

崖からは二度滑落しました。一度目は木に引っかかって他のハイカーに助けてもらいました。二度目も木に引っかかったものの、笛を吹いて救助を待っても誰も来なかったので無理矢理崖を登りました。今思えばPLB(※3)を使うべきだったかもしれません。

※3:Personal Locater Beacon、個人登山者などが窮迫した状況に置かれたときに緊急信号を送信して救助を要請できるもの

Q.テ・アラロアの醍醐味や、やって良かったと思うことは何ですか?

たくさんの国の素敵なハイカー達に出会えたことです。みんなロングトレイル初心者で英語もあまり話せない私を本当によく助けてくれました。もともと歩くことが好きですが、もっと速く長く歩けるようになって、他の国のロングトレイルにも挑戦して、お世話になったハイカー達にも会いに行きたいです。

Q.テ・アラロアを踏破した今、次の目標はありますか?

フランスのHexatrekを歩くことです。その次はオーストラリアのBibbulmun Track。テ・アラロアで出会ったフランスやチェコ、オランダ、オーストラリアのハイカー達にも会いに行きたいです。Santiago de Compostelaの巡礼路とアイスランドのLaugavegurも歩きたいのですが、これはまたお金が貯まったらにします。

Q.これからテ・アラロアを始める読者にアドバイスをお願いします!

正直、テ・アラロアの道はかなりwildです。泥だらけにならない日や靴が濡れない日の方が稀でしたし、道に迷ってばかりいました。だからこそ自分が楽しいと思うハイキングをしてほしいです。一緒にいて楽しいと思う人と歩いたり、歌って踊りながら歩いたり、一人で歩きたくなった時は一人で歩くといいと思います。辛くなったりやめたくなったら、ヒッチハイクでスキップしたり、ハイキング自体をお休みしてもいいんです。私も、カヌーセクションは大雨による川の増水でスキップしています。ロングトレイルは誰かのためにやってるわけではなく、ごく個人的な行為です。他人や環境に迷惑や影響を与えない範囲で、どうやったらもっと楽しくなるかな?と色々考えながら歩いてみて下さい。

Longwood forestの泥を歩いた後

とりさん

テ・アラロアを歩く前は登山歴無し。ほぼ毎日映画館に通う理学療法士でした。「ロード・オブ・ザ・リング」「ホビット」3部作が好きで、ニュージーランド各地のロケ地に行きたくてテ・アラロアへの挑戦を決意。日本で1年かけてギア調達・登山の練習をしてきました。

【X(旧Twitter)】https://twitter.com/tori0724

2023年10月号掲載
Text: GekkanNZ スタッフ