【WEB限定】『ニュージーランドと日本は、ファッションに対する発想が違う』ファッションデザイナー/陶芸家 坂口隆章さん

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SAKAGUCHIブランドを立ち上げ、ニュージーランドファッションの発展に貢献した服飾デザイナー坂口隆章さんに、この国のファッション業界についてやファッションに対する思い、そしてファッションデザイナーから陶芸家への転身した理由を伺った。

坂口隆章さんから見たニュージーランドのファッションとは

――坂口さんは、「日本や世界のファッションをニュージーランドに伝えたい」という思いで来られたそうですが、実際この国のファッションはどんな感じだったのでしょうか?

最初に訪れた1994年当時は、ニュージーランドのファッションは日本より3年くらい遅れているイメージでしたね。日本は、パリコレをはじめ、ロンドンやニューヨーク、ミラノのコレクションなど、ヨーロッパの影響を受け、情報も走っていました。日本人はメディア的なものを受け入れやすく、ファッションへの関心が高いのに対し、ニュージーランドではファッションよりスポーツなどほかのことを大事に考えていたからじゃないかなと思います。まだアジア系のデザイナーはいませんでしたし、日本にいた僕自身もオーストラリアやニュージーランドのファッションは聞いたことなかったころですね。

でも、2000年くらい過ぎたころから、カレン・ウオーカー、ワークショップ、ザンベシ、トレリス・クーパーなどのデザイナーが活躍し始めました。さらに、ファッションウィークが創立され、海外のバイヤーからもニュージーランドのファッションデザイナーが注目を浴びるようになっていきました。僕もその波に乗ってオーストラリアやニュージーランドで40店舗くらいにSAKAGUCHIを置かせてもらえるようになったという感じです。

――ニュージーランドのファッション業界で一から経験を積まれてから、SAKAGUCHIブランドを立ち上げられましたが、当初日本の現場とどんな違いを感じましたか?

ニュージーランドに来て、経験のために何人かのデザイナーの下で働かせてもらった時に感じたのは、“発想の違い”です。この国のファッションは、新しいものを作り出すというよりかは「この雑誌と同じものを作りたい」という意識が強かったですね。僕は何もない状態から生地を見てデザインしますが、ここでは雑誌を見て「これ、いいね。うちのブランドでもちょっと変えて作りましょう」と。出来上がったものから作るので、ファッションも出遅れてしまいますよね。

アジア人というか日本人だから、ファッションに対するとらえ方が違うのかもしれませんね。例えば、1つの生地のサンプルを見せられた時、「生地をどういう風に生かすか」という考え方。日本には折り紙という文化がありますので、折って服を作るという発想が生まれます。これは日本人だから持つ生地に対する見方や使い方で、ニュージーランドの人の生地に対するものとは違います。こちらの人にとっては、「生地の特徴をうまく生かしたデザインでファッションを作る」というデザイナーは少なかったように感じます。

――「デザインをニュージーランド人の好みにあえて合わせなかった」ということですが、どんなことにこだわり、どんなファッションを作りたかったのでしょうか?

ニュージーランド人にあえて合わせなかったのは、自分らしさを伝えたかったからですし、僕の持っている表現力を洋服に表したかったからです。

僕独自のコンセプトを貫く上で、やはり生まれ育った環境、バックグランドの影響は大きいですね。1センチや1ミリをどうとらえるか。僕は1ミリを大切にします。パターン(型紙)がある時は、1ミリでも形が変わってしまうのですが、ニュージーランド人は「1ミリくらいどうでもいいじゃん?」と思われることが多いですね。その1ミリから生じる全体的に見たバランスを大切にとらえたいと思っています。そういうバランス感というものを小さい時から培ってきたし、それを大切にし続けています。世界に進出し始めたニュージーランドのデザイナーは1ミリの違いを気づいたと思いますよ。

© SAKAGUCHI

SKAGUCHIブランドの成功から、なぜ陶芸家の道へ

――オーストラリアとニュージーランドで40もの店舗でSKAGUCHIブランドを展開し、成功を収めていた最中に、陶芸家に転身されました。一体何があったのでしょうか?

今でもファッションは好きですが、やり遂げたと思ったからですね。何店舗ものお店に置いてもらえるようになり、SAKAGUCHIの名前だけが独り歩きするようになってしまったんですよね。「SAKAGUCHIの服なら私買うわ」という風になってしまった。すると「SAKAGUCHIの名前だったら簡単に売れるから、こういうラインがいい」と指示されるようになり、自分が表現したいデザインでなくなってしまいました。人とは違うものを作りたかったのに、大量生産できるような大衆的なものになってしまった感じです。自分の名前がついているけれども自分のデザインではないという感覚でした。だから改めて本当のファッションを見直したかったですし、自分自身区切りをつけて、一旦違う方向に進んで行こうかなと思いました。

SAKAGUCHIブランドは、オーストラリアの首相夫人や政治家、オペラ歌手、ニュースキャスターの方も今も愛用しており、ブランドを閉じでもなお、根強い顧客が坂口さんのファッションを求めている。「『タカアキに自由に私の服を作ってほしい』という方に、作っていますよ。もちろんファッションは好きですから」と坂口さんは語ってくれた。

坂口隆章
Takaaki Sakaguchi 坂口隆章さん

1967年生まれ大阪府出身。クライストチャーチ在住。近畿大学と大阪モード学園に同時に通いデザインの勉強した後、アパレルメーカーに就職、「KOSHINO」一門で、約7年間研鑽を積む。ニュージーランドに移住後は1996年からこの地のファッション業界で経験を積んだ後「SAKAGUCHIブランド」を立ち上げる。豪州・ニュージーランドを中心に圧倒的な人気で展開するが、2018年、ファッションデザイナーから陶芸家に転身。

取材・文 GekkanNZ編集部