「昔の人の作品も素晴らしいですが、同時代を生きる人が発するアートは、より共感でき、感銘を与えられると思います」と語る古川晴子さんは、今の時代に求められているアートの力や必要性を強く感じている。
1日で100人の友だち申請が
アーティストにとって、インターネットは発表の場を広げる格好のツールだ。とりわけSNSは、より多くの人に気軽に自分の作品を見てもらえるチャンスとなる。晴子さんの場合、昨年4月のロックダウン中に日本の大学の友人と交流が始まり、「晴子のニュージーランドに行ってからの作品を見たい」との一言がきっかけだ。毎日一作品のペースで、これまでの作品をインスタグラムやフェイスブックに投稿することにした。
以前はいいねボタンも一けた台だったが、1日に100人以上の友だちリクエストが来るようになり、世界中の人からメッセージが届き感動したという。その結果、ニューヨークからオンラインのライブペイントバトルに呼ばれたり、75周年広島平和記念の音楽と絵画のコラボイベントへの参加依頼や、カナダの詩人さんから詩集の挿絵依頼を受けたり、世界の人々とつながることになった。
「いろんな人を巻き込んでいくのもアートの一部だと思います。人とつながり、人の言葉で、アイデアが浮かび、自分がやるべきことが見えてきます。それをやるとまた人と出会い、導かれるようにつながっていくように感じます」
「コロナのパンデミックもそうですが、今は時代の大きな転換期だと思います。モノに価値を求めた物質重視の時代から、目に見えないものや心の世界に価値が見いだされる時代に変わりつつあると言われています。そういう中ではアートはより強く人々から必要とされていくものではないでしょうか。
家族だんらんより個人で過ごす時間が増え、楽しい部分もある一方孤独も感じている時代、AIにない想像力やひらめきを持つアーティストの力で感動や癒しを与えられるのではないかと思います。そして、一人の力よりも、異なる能力や背景やセンスを持つ多く人の力を合わせて表現できたらと思います。アートがもっと多くの人に響き、幸せな気持ちになってもらえればうれしいですね」
その思いは、9月2日からサウスライブラリーでの『Big Bang 12』展でも表現される。東京・五反田駅構内に展示されていた『ラブ&ピース』の作品60点がニュージーランドに届けられ、晴子さんをはじめニュージーランドの人々の作品と合体する。国も世代も違う人々の絵をつなげて、愛や平和を一つの大きな作品として表現する試みだ。
クライストチャーチが求めるアート
ローカルの実生活の中にもアートは息づく。クライストチャーチは、2011年の震災や2019年のモスク銃撃事件を経験し、街を上げて、復興や平和をアートで表現しているという。晴子さんも、モスク銃撃事件の後、路上いっぱいに手向けられた花束を見て、平和を伝える絵を描きたいと思った。そしてカシミアハイスクールの玄関にある電気通信業者コーラスのユーティリティボックスに描く『キャビネットアート』で『ワールド・ピース』を描いた。
「あの銃撃事件の時、カシミアハイスクールのある男子生徒が立ち向かっていったことで多くの人が逃げられたのだと聞きました。男の子の魂が赤になったと思い、彼の勇気と愛を称え〝赤い鳥〟を描き上げました」「クライストチャーチは、震災で崩れて残ったビルなど至る所に壁画が描かれていますが、自然やマオリの文化を伝えたい、クライストチャーチの個性の街を作ろう、といった絵が増えてきているように思います。
時代の流れや新しい風を感じ取って表現していくのがアーティスト。社会とつながって、大きなことをしていきたいなと思っています」
古川晴子
画家京都嵯峨芸術大学で日本画を学ぶ。2002年クライストチャーチに移住。
個展や他分野のアートとのコラボ展、絵画教室を開催し、パブリックアートにも参加。
【Web】artdreamharu.com
取材・文 GekkanNZ編集部
2021年9月号掲載