インタビュー:パーマカルチャーを実践する神谷ゆきさん

楽な暮らし方を提案する、ニュージーランドのパーマカルチャーLIFESTYLE

2022年7月号掲載

楽な暮らし方を提案する、ニュージーランドのパーマカルチャー

「自然に寄り添う持続可能な生活全体のデザイン」と定義されるパーマカルチャー。
パーマネント(永続性)と農業(アグリカルチャー)を組み合わせた造語で、環境にも人間にも無理のないナチュラルなライフスタイル全般を指す。
オークランドのエコビレッジでパーマカルチャーを実践する神谷ゆきさんにその魅力を伺った。

無理をしない暮らし方

パーマカルチャーというと自給自足や環境に優しいエコな生活を思い浮かべるだろう。何やら敷居が高く、都会では難しそうなイメージがあるが、実はどこでもでき非常に楽な暮らし方なのだと神谷ゆきさんは言う。 

2003年9月、3人の幼い子どもを連れて家族でウエストオークランドにあるアースソングに入居したゆきさん。ここはパーマカルチャーとコウハウジングをコンセプトに、約20 年前に誕生したエコビレッジだ。元果樹園だった敷地内は舗装道を最小限に抑え、できる限り緑を確保している。リソースを可能な限り共有し、助け合って暮らすコウハウジングではプライバシーはしっかりと保たれ、それぞれ独立した住居に32 世帯が暮らしている。

 「長男が通っていたシュタイナースクールの同級生がアースソングに住んでおり、その紹介で引っ越してきました。それまでもパーマカルチャーに興味はありましたが、実践経験はありませんでした」

環境に配慮して設計されたアースソングでは、シャワーやトイレ、洗濯といった生活用水と温水はほとんど雨水タンクに溜まった水と各家庭の屋根にあるソーラーパネルによる太陽熱温水器でまかなう。共同菜園でさまざまな作物を育て、鶏やミツバチも飼育。

生ごみや排泄物の一部は肥料にするなど、自然に寄り添う暮らしの実践の場だ。ゆきさんの子どもたちは緑豊かな環境でのびのびと育ち、アースソングの住人たちは温かく子育てを手伝ってくれた。できる人ができることをできる時に喜んで提供し合う──ゆきさんはそうした無理のない生き方をここで学んだと話す。

「自分が不得意なこと、やりたくないことはやらなくてもいいし、誰か別の得意な人がやってくれます。例えば私は畑仕事が好きなので共同菜園の作業は積極的にやります。しかし料理は苦手だから共有スペースで開催される週2回の合同ディナーでは調理チームに入りません」

ハーブスパイラル菜園
小さいスペースでもさまざまなハーブを栽培できるハーブスパイラル菜園

多様性が認められる社会

ゆきさんは貯水池で米作りに挑戦したり、講師を招いて敷地内にハーブスパイラル菜園を作ったりしている。こうしたコミュニティー全体に関わる活動は住民たちとミーティングで話し合い、コンセンサスで決めるのがアースソングのやり方。いろいろな人がいるだけにさまざまな意見があり、もめることや納得いかないこともあるが、それも含めて面白く感じられるようになったとか。

「自分とは違う意見に賛同しなくてもいいし、嫌いなものを好きになる必要もない。ただそういう考え方もあるんだと知り、認めること。私も私のままでいいんだと自信を持てるように変わりました」

パーマカルチャーの概念の一つは多様性だ。ニュージーランドはマオリも含めて全員が海外から渡ってきた移民国家。異種の人々が共に作り上げた社会は、排他的ではなく、パーマカルチャーに通じるものがあるとゆきさんは指摘する。 

「パーマカルチャーでは人的リソースも重要な要素です。例えば都会にはいろいろな人たちがいて、能力や興味のあることが違います。丁寧な対話を通して他者とスキルや関心を無理なくシェアすることで、一人では難しいことも実現可能になります。別に菜園をしなくてもそれもパーマカルチャーです」

 地球はもちろん、人とのつながりを大切にするパーマカルチャーは、楽な暮らし方のヒントとなるだろう。

鶏もパーマカルチャーの大切な一員
雑草を食べて上質な肥料になる糞を落とす鶏もパーマカルチャーの大切な一員
旬の作物も自分の手で栽培・収穫
旬の作物も自分の手で栽培・収穫。ご近所さんと分け合って喜び倍増
敷地と住居の見学や質疑応答を含む公開ツアーは年に4回。
敷地と住居の見学や質疑応答を含む公開ツアーは年に4回。次は7月9日に開催予定

神谷ゆきさん

千葉県出身。父親の仕事の関係で子ども時代をタイで過ごす。
「多様性を尊重する場所で子育てがしたい」との思いで、2003年ニュージーランドへ移住。

Text: Miko Grooby