【海外サッカー】ニュージーランドのサッカーニュース Vol.004 カルチャーギャップを乗り越える

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サッカーだけではない?!考え方の転換

2023年のNational Leagueが開幕し、日本人選手の活躍する試合も観戦していく中で、サッカーコラム第4回の今回は日本からやってきた選手たちが最初にぶつかる「日本とニュージーランドのサッカーにおけるカルチャーギャップ」についてAuckland City FC所属の岩田卓也さんにお話を伺った。そこには、サッカーの話だけではなく、二つの文化をまたぐときに起こる日常の様々なシーンに役立つヒントが隠れているようにも思えた。

クラブや監督に合わせつつ自分の持ち味や良さを出す

サッカーという同じ競技をしているのでもちろん共通点はあるのだが、日本のシステマチックなサッカーを体得した選手たちがいざニュージーランドでサッカーをしてみると、まず文化的な違いに戸惑うことが多いと聞く。選手としての技術的能力の高さは認めてもらえるものの、チームとして戦う以上チームメイトとの連携は重要だが、そこに大きな違いがあり本領を発揮できずに苦しむことが多いそうだ。そういった状況について、どのように対処してきたか、2012年からニュージーランドでサッカーを経験し日本人クラブW杯最多出場など第一線で活躍してきた岩田卓也選手にお話を伺った。

「まず若い選手たちにぜひしてもらいたいのは、“よく観察する”ということ。環境は簡単には変えられないので、“もう日本ではない”という事実を受け入れ、選手個人を理解するために観察し、それぞれのプレースタイルを把握しコミュニケーションを取ってみましょう」と岩田さんは言う。

「僕もニュージーランドに来た初めの頃はそうだったのですが、“日本だったらこうなのに…”と思い、本来の自分の力が出せないことにフラストレーションを感じることもあるのではないでしょうか。でも、若い選手たちにはまず、“環境に対して自分を変えてみる”ということをやってみてほしいなと思います。例えば、自分の意見をチームに反映してもらうために“こうしたい、ああしたい”と監督に話すのは実は最後の選択肢。ある程度サッカーでキャリアを築いている選手などはまた別ですし、選手として監督に意見を言わないといけない場面も場合によってはあると思いますが、監督もプライドを持ってやっていますし、まずは自分のポジションの周りの選手で話し合い、お互いに理解していく、それからキャプテン、アシスタントコーチに話してみる、など段階を踏んでいくのがニュージーランドのやり方だと思います。ただ、その前にも、まずは自分の力を過信し過ぎず、自分を迎えてくれた環境に対して謙虚になって自分の気持ちを整理し、マインドセットを変えてみる。指示を出す側が動かないなら、自分で周りの選手と話してみる。英語ですから言葉でのコミュニケーションが難しければ、サッカーなので、練習や試合をよく観てどうやったら選手間で動きやすいのか、周りの動きを観て判断して感覚をつかみ自分が変わって動いていく。それをぜひ試していってほしいと思います」とのことだ。

試合前に練習するAuckland City FCの一幕
ニュージーランド育ちでフィジカルサッカーをしてきた選手が多い
チームメイトのプレーを理解して自分のプレーを合わせていく

試合前に練習するAuckland City FCの一幕。激しいぶつかり合いに備えて一丸となってウォーミングアップする選手とサポートするスタッフ。多国籍社会で様々なルーツを持つ選手はいるものの、ニュージーランド育ちでフィジカルサッカーをしてきた選手が多いニュージーランド。日本でサッカーを学んできたプレーヤーたちにとってはカルチャーギャップもあるが、チームメイトのプレーを理解して自分のプレーを合わせていく、というコミュニケーションをとってみるのもクラブに溶け込むための一つの手段だと言える。

様々なことを自分で学び組み立てる

ニュージーランドのサッカーといえば、“フィジカルサッカー”だとよく言われる。具体的にどのようなもので、日本仕込みのサッカーをしている選手にとってはどのようなことに気をつけたら良いのだろうか?

「“ニュージーランドのフィジカルサッカー”は文字通り、走って、ぶつかりながら競っていくサッカーですね。体が大きく身体能力を活かしてプレーするのがメインで、ラグビーの国なのでときにはタックルのようなものを喰らうことも(笑)。ケガにも注意しないといけませんが、まったくケガをせずにいることは不可能だと思います。そういう場合も、日本でのトレーナーが行ってくれるようなケアを期待することはできないので、自分で注意して管理していくことになりますね。例えば復帰のときも休んだ後にすぐトレーニングするのではなく、自分で意識して段階を踏んでいくのがよいでしょう。練習から離れて休んでいる間のリハビリ、その間に筋肉が落ちるので筋トレを行い、ある程度回復してチームに合流しても別メニューでサッカーの動きの中でリハビリをし、少しずつ動きの強度も上げていき、トレーニングのためのリハビリもしていくようにしないと、再発しケガが長引いてしまうことがあります。チーム側にそういった部分をケアする専門家がいないことが多く、自分でパーソナルトレーナーを雇うなども良いですが、チームのトレーニングメニューとリハビリを連携させていくのは自分となりますので、自分でリハビリについて学ぶ必要が出てきます」と岩田さんは言う。

前向きに気持ちを切り替え行動していく

キーウィのプレーヤーは日本のプレーヤーより試合後はあっさりとしていて、振り返りも淡白だというが、ここをどう捉えていったら良いだろうか。

「確かにニュージーランドのプレーヤーの切り替えは早いですね。試合結果はもう終わったことなので変えられない、なら次に向かおう、という考え方です。ただ、反省すべき点があるのも事実なので、日本からのプレーヤーの歯痒さも分かりますが、僕もひきずるより次にどんなプレーをするか前向きに考えてどんどん行動していくように切り替えるしかないと考えるようになりました。そのためにもチームメイトを観察し、自分から行動していってみてください。自分から変わって合わせていくことでコミュニケーションとなり、信頼関係が生まれ、連携も取りやすくなるのではないでしょうか。日本はJリーグ開幕から外国人の選手や監督などを招聘し、世界のサッカーも取り入れてきましたがニュージーランドはまだそういった時期がなく、自国内の監督や選手が多い。変わっていくことはできると思いますがすぐには変われないのが現状だと思います。まずは自分が環境に合わせてコミュニケーションを取りながら、自分の考えを周りに知らせていきましょう」

今回のテーマは、サッカーコラム第一回でも岩田さんが言及されていた、“ニュージーランドでは周りがやってくれないことを自分で考えて臨機応変にプレーできるようになり、使われる選手から考えてプレーできる選手へと成長できました。これはサッカーだけでなく人間としての成長でもある”という部分に通じるように思う。

「サッカー選手として、自分の持ち味、特徴をピッチで表現することは大切です。しかし、サッカーはチームスポーツなので各クラブに特徴があるのと一緒で、監督によって戦術も異なる中、監督の求めるプレーをしながら自分の持ち味を出していく。全てを変えることは難しいけど、その環境などに適応できるのもサッカー選手として大切なことだと思います。チームの中で自分を出すには、柔軟な考え方で臨機応変に対応していけるように心がけてみてください」

“変えられない環境に意識を向けるのではなく、まずは自分のマインドを変えて行動していく”__。これは実は、サッカーだけの話ではなく、私生活から仕事、日本からニュージーランドなど異文化圏に移住したときに感じる葛藤すべてに通じる対処法のひとつなのかもしれない。

岩田 卓也
Takuya Iwata

ポジション:DF。2006年に岐阜FCに入団。オーストラリアに渡り2010年からエッジヒル・ユナイテッドFC、クイーンズランド・ブルズに加入後、ニュージーランドに移住し2012〜2019年Auckland City FC在籍。2020年からウェスタン・スプリングスAFC、日本に戻り、はやぶさイレブン、福井ユナイテッドFCを経て、2022年から再びAuckland City FCに加入。

岩田 卓也さん

2023年5月号掲載
Text: GekkanNZ