新年のごあいさつ ー 在オークランド日本国総領事館 総領事 松居眞司

新年のごあいさつ 在オークランド総領事館 総領事 松居眞司IMMIGRATION

2023年6月に赴任された松居眞司 総領事に
総領事館としての今後の活動方針やご自身についてお話を伺いました。

ワーホリ中のライター安部さくらが総領事館でインタビュー

2023年はどのような年でしたか?

 平和と安定、経済社会の発展のために両国が共通に大切にしてきた国際ルールや自由や民主などの基本的価値を揺るがす侵略や力による現状変更の危機に晒され、これに分断より協調で打ち勝つ国際社会の取り組みを重視する日本とニュージーランドの連携と協力が進み、それぞれの安全保障戦略に基づいて防衛協力を推進し、ルールに基づく国際システムを擁護するための諸国間の協力強化への貢献を重視した1年でした。貿易投資など経済ビジネス、また気候変動も安全保障にとっての重要性が確認され、太平洋の島国に対する気候変動や防災分野での支援を進めてきました。

気候変動への取り組みはいかがでしたか?

 グリーン技術のイノベーションがいよいよ実用化されていることに大きな希望を感じます。例えば、オークランドの一部のバスは、水素電池で動いています。昨年、タウポ湖の近くにある工場を視察しました。日本の企業が、マオリの方々の理解を得て、地熱利用ができる火山地帯で、炭素に代わるエネルギーの開発に取り組んでいます。日本のビジネス・パートナーシップとイノベーションで日本とニュージーランド経済への貢献が着実に進んだ1年でした。

交流面で良かったことは何ですか?

○スポーツ・文化交流の輪

 ニュージーランド・オーストラリアで女子サッカーワールドカップが開催され、日本サッカー協会のご尽力もあり、開会式はオークランド市長、ナデシコ初戦はハミルトン市長、ナデシコ準々決勝はオークランド副市長と応援で盛り上がり、最後に日本語補修校の生徒の皆さんの寄せ書きをナデシコに届けることもできました。このように交流の輪が広がったのは紛れもなくスポーツの力です。また、9月に草月オークランド支部展覧会が55周年を迎え、先生方と会員の方々にお祝いを申し上げました。さらに11月に日本武道館主催で日本とニュージーランドの武道文化交流セミナーが開催され、礼節を持って友情と理解を深める素晴らしい交流が実現しました。

○姉妹都市の交流の再開

 姉妹都市の交流が再活性化した年でした。先日、福岡市関係者の方々と福岡フレンドシップガーデンで、梅の木の植樹式を行いました。品川区長一行は、オークランドの港を視察、オークランド市の30周年記念式典に出席されました。ワイタケレ地区では加古川市との学校間交流も再開しました。国と国の相互理解はこうした人と人のつながりが積み重なって初めて深まるもの。少しでも多くの人が外の世界に心を開くきっかけになるよう、草の根交流をサポートしていきたいです。

○嬉しい再会

 毎年、持続可能な経済社会の発展に向けて経済人会議を実施しています。そこで、私にとって2023年3月以来の福島の子供たちとの再会と言える交流に恵まれました。元駐日ニュージーランド大使のケネディー夫妻が、東日本大震災時に支援してくれた国を子供達と訪問する活動をされていて、今回の会議に学生たちが参加してくれました。奇跡とご縁だと胸が熱くなりました。なぜなら、震災の1週間後に国際原子力機関と福島で小学校を含め放射線計測のサポートをした経験があったからです。当時福島にいた者として、「ここで見た景色の全ては、これからやりたいことの選択肢をグッと広げることができるから」と励ますことができたことは、胸熱くなった仕事のひとつでした。

2024年はどんな年にしたいですか?

 皆さんの安全をお守りすることが一番ですが、その上で、色々なバックグランド、アイディアで活動しておられる皆さんの間に入ってサポートしていきたいです。私が見てきた外の世界のこと、ニュージーランドの素晴らしさ、協力することの素晴らしさを共有しながら、「平和であろうよ」というような大きな目標に向かって、一緒に考える時間を作りたい。若い人たちから学んでいきたいと思うんです。恥ずかしいくらい英語も話せないままアメリカに行ったあの時の自分といつも比べています。歳をとった今だからこそ言葉にできて、各国のリーダーと議論ができる。そんな自分の立場を使いながら、若い方と対話していきたい。そして、違う世代の人が集まって、インタージェネレーショナルなアクションにつなげていきたい。人生の先輩方の知恵や経験を余すことなく若い世代に共有するお手伝いがしたいし、若い人には恐れずに懐に飛び込んできてもらいたいですね。

松居総領事はこんな人!ご自身について伺います。

日本の生活と比べて変化はありましたか?

 国連などの国際機関で仕事をする期間が長かったので、ニュージーランドのことを中心に考えていられるというのは大きなチェンジです。一方、生活面で好きなことは、ジオパーク巡りないし夫婦での「ブラタモリ」。スキーなども始めました。

外務省に入ったきっかけは?

 小学校1年生の時に行った大阪万博を機に「外の世界にはここと違う素晴らしいものがあるんじゃないか」と思いながら過ごし、就職が決まりかけた時に、「外の世界を見ずに社会に出るっていうのはどうなんだろう」と、自分の中の強い衝動のまま、就職を断って、1980年代後半の中国を2ヶ月バックパックで回ったんです。旅の途中にアメリカ人のパックパッカーに出会いました。彼が、目をキラキラさせて「外交官を目指している」と話し、国と国の間に入って仕事をすることがいかに素晴らしい仕事かを語ってくれました。日本の外交について何も答えられず「それなら自分が中に入って見てきてやろう」と考えた。これが強い動機です。そして「あいつに国務省で会えるかも」と思ったんです。

仕事をする上で大切にしていることは?

 人には奇跡的に引き継がれてきた命のバトンと途方もないポテンシャルがある、いいところがあるに違いないと思っています。人間が大好きなんです。その人のグッドハート、グッドマインドとお付き合いしたい。そんな思いで日本人会、二水会、その他ビジネス、学生、ワーホリでいらした安部さん含めニュージーランドでお会いした方々とのご縁を大切に来年も応援させていただきます。お付き合いの先でまた会いたい、一緒に仕事がしたいと言われることは、最高のご褒美です。これだから外交はやめられないんですよ。


 松居総領事は、1989年に外務省に入省後、海外ではアメリカで研修・勤務、UNHCRとの難民支援、IAEA派遣、ICAOでの航空安全確保や環境対策、本省では、WTO政府調達や経済連携協定交渉、韓国やフランスとのワーキングホリデー協定締結、国際テロ対策、ハーグ条約実施、国連専門機関でのルール作りなど経済・法務社会分野の外交を経験され現職に。

 これまでのお仕事での印象的なエピソードや、異文化で生活する上で大切にされていることなど貴重なお話をいただきました。

 総領事のインタビュー特集はWEBサイトにて公開予定。お楽しみに。

2024年1月号掲載