ニュージーランドの福祉サービス・高齢者福祉編

ニュージーランドの福祉サービス IMMIGRATION

この国の居住歴が長い人も意外と知らないことが多いニュージーランドの高齢者サービス。この国の社会保障や年をとる時に知っておくと得をする年金や医療保険の情報など、プロの方々のアドバイスを元にお届けします。

ニュージーランドの高齢者サービス~基礎知識~

ニュージーランドでは一体どのようなサービスが受けられるのでしょうか。
この国で暮らすために知っておきたい高齢者サービスの基礎知識をご紹介します。

①年金受給資格は?

ニュージーランドの年金受給条件は、65歳以上の国民または永住権保持者で、年金受給時に国内に居住していること、20歳から64歳までに10年以上(50歳から64歳の間に少なくとも5年間)の居住実績を有していることが必要となる。日本から年金を受給している場合は減額され、ほかの年金受給者と同等の金額になるように調整される。 ※2018年現在 

②国が提供するサービスは?

介護が必要になった場合、在宅か福祉サービス機関での介護を選ぶことができる。福祉サービス機関での介護の場合は、介護や認知症、専門病院ケア等が対象となるため、リタイアメントビレッジは含まれていない。その地区の保健局の『Needs Assessment Service』にて、家族構成や現在の収入、どのくらい介護を必要としているかなどが調査された上で補助金が支給される。

③一般的にどのような介護を受けているの? 

65歳以上の約半数の人がレジデンシャルケア(レストホームや病院などの施設での介護)を利用している。その期間はバラバラで10%は4週間以内、17%が5年以上、最も一般的なのは18カ月とされている。1/3 の人がおおよそ約5万ドル(年間)の介護費を全額負担しているのに対し、2/3 の人は国からの補助と年金でまかなっているのが現状だ。

④サービスを受けるのにかかる時間は? 

上記(②)の許可が下りると、在宅介護の場合は数日、もしくは数週間でサービスを受けることができる。福祉サービス機関での介護の場合は、希望の施設の空きがあるとすぐに入居することができる。ほぼすべての地域で介護施設の受け入れ態勢は整っているものの、個人的に特別な希望がある場合は、その施設に空きが出るまで待たなければならない。


情報提供  Ministry of Health, Ministry of Social Development ( Kay Read: Group General Manager Cliant Service Delivery)

この国の社会保障を読み解く

この国の社会保障制度がどう変化してきたのか。利点や今後の問題点などを挙げながら、立教大学コミュニティー福祉学部の芝田英昭教授に解説してもらった。

ホームレス問題とNZ

日本から見ると、ニュージーランド(以下NZ)は高福祉で暮らしやすい国との評価が高い。確かに、NZは1938年に体系的・包括的『社会保障法』を制定し、福祉国家の礎を世界に先駆けて築いている。

しかしながら、OECDが2017年7月24日に発表した加盟国のホームレス人数などに関する調査結果では、NZのホームレス人数対人口比が他国に比べて突出して高いという事実が示された。このほかにも児童虐待や若者の自殺など多くの問題を抱えるNZは、かつての福祉国家のイメージからはほど遠い姿にある。

NZの社会保障の特徴

NZの社会保障サービスは中央集権的に行われている。経済給付は、社会開発省の出先機関であるワーク・アンド・インカムで申請。保健・福祉サービスは、保健省およびその地方機関である地域保健局と契約がある医療機関及び福祉サービス機関において利用できる。

①保健制度における深刻な問題

日本と異なり、NZでは疾病を疑う場合、まずは一般開業医(GP)にかかり、専門的治療が必要と判断された場合に開業医から紹介を受けた病院にかかる。GPの機能は住民の健康を維持することにあり、薬剤の処方箋の発行、健康管理や禁煙への助言等の健康相談業務も行う。

GPは基本的には全額自費となるが、18歳※1未満は一定国庫補助があり、18歳以上でも前年の所得が基準以下であれば、自己負担は無料となる。GPから紹介された病院(保健省や地域保健局と契約のある病院)の治療は無料だが、これ以外の民間病院で受診した場合は全額自己負担となっている。

長らくNZでは、病院で長時間・長期間待たされる『保健待機者リスト』が医療問題とされてきた。保健省は2013年に同問題に関する提言書を政府に提出し、救急部門での待機時間の短縮、手術待機のアクセス改善、ガン治療の待機期間の短縮を行うとした。

しかし昨年12月、保健※2・障害局長官アンソニー・ヒルが保健大臣デヴィッド・クラークに「保健待機者リストにおいて苦情が増加している」と報告したことから、現在もこの問題は深刻である事がうかがえる。

②所得保証の簡素化

2010年と2013年、政府は福祉改革を行なった。第1期では所得保証受給者の就労を促進する包括的な改革を実施。第2期では、複雑な多数の手当を3つの新しい給付カテゴリー(求職者支援、1人親支援、生活支援給付)に改変した。本手当は就労の可能性を前提としており、障害、疾病、負傷等によっては給付が大幅に制限された。

この福祉改革は、1990年代以降の欧州で実施された『ワークフェア』政策に酷似し、就労できない者や就労しない者を〝怠惰な者〞とみなす方向でもあった。

③高齢期の安心感の高い年金制度

高齢者への基本的所得保障は、NZ基礎年金、および退役軍人年金である。基礎年金の受給要件は、NZ国民か永住権保持者で65歳以上の者、年金受給時にNZに居住していること、さらに20歳から64歳までに10年以上のNZ居住実績(50歳から64歳の間に少なくとも5年間の居住実績を含む)のすべての要件を満たさなければならない。

給付額は、単身者で月当り日本円で約13・7万円※3。日本の満額老齢基礎年金(40年間保険料を納めた場合)は昨年4月から年額77万9300円となっており、月額換算で6万500円程度であることを勘案すると、NZの年金額は基礎的な生活を営むには十分だと言える。NZは基礎年金の補完と貯蓄の奨励を目的として、2007年7月から任意退職貯蓄制度『キーウィ・セーバー』を開始した。被用者は就職と同時に自動加入で、本人及び雇用者の拠出金を証券会社等に預託して運用し、原則65歳以降に受給する。去年6月までに、275.5万人が加入しており、これはNZ人口の約6割にあたる。

NZの社会保障の今後

NZは社会保障法成立以来、その財源を一貫して一般租税で賄っており、日本のように主要な社会保障給付を社会保険(医療、年金、介護、労災、雇用) で運営している国とは大きく異なる。

NZは人口規模が少なく、一般租税で社会保障を賄うには合意が取りやすい環境にあるのかもしれない。だが、移民の流入や急激な人口増加を受け、〝一般租税で賄う〞との合意が持続できるかは予断を許さない。加えて、現在65歳以上の人口が15パーセントを超え高齢社会へ差し掛かり、新たな問題への対応も必要となってくる。

1980年代以降、NZは福祉国家・規制国家から規制緩和大国に変ぼうする過程で、独自の取り組みを繰り返してきた。〝実験国家〞とも称されるNZが今後、社会保障においてどのような〝実験〞を行うのかこれからも目が離せない。

※1、2015年7月より、13歳未満GP受診無料
※2、NZ Herald、2017年12月7日より
※3、2018年4月より単身者、週当たり400 ・87 NZドル。2018年4月25日の為替レート 1N Zドル 77円で計算

Hideaki Shibata

芝田英昭氏

立教大学コミュニティ福祉学部教授(博士:社会学)。福井県生まれ。
福井県職員、西日本短大専任講師、大阪千代田短大専任講師、立命館大学産業社会学 教授を経て2009年より現職。

著書:『 齢期社会保障改革を読み解く』(2017:治体研究社)、
『増補改訂基礎から学ぶ社会保障』(2016:自治体研究社)、
『介護保険白書…施行15年の検証と2025年問題への展望』(2015:本の泉社)など。



2018年6月号掲載

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